ばね指(弾発指、狭窄性腱鞘炎)
1.疾患の概要
ばね指とは、指を曲げ伸ばしする腱と、その腱が通る腱鞘に炎症や狭窄が起こり、指の引っかかりや痛みが生じる病気です。医学的には「弾発指」や「狭窄性腱鞘炎」と呼ばれます。
指を曲げる腱は、手のひら側で腱鞘というトンネルの中を通っています。特に、指の付け根にあるA1 pulleyと呼ばれる部分で腱の通り道が狭くなると、腱がスムーズに動かなくなります。その結果、指を曲げ伸ばしする時に引っかかり、ばねのようにカクンとはねる現象が起こります。
初期には、指の付け根の痛みや違和感、朝のこわばりが中心です。進行すると、指の曲げ伸ばしで引っかかる、指が伸びにくい、曲がったまま戻らないなどの症状がみられることがあります。重症になると、反対の手で補助しないと指が伸びない、あるいは指が固まって動かしにくくなる場合もあります。
ばね指は、親指、中指、薬指に多くみられますが、どの指にも起こる可能性があります。手をよく使う方、中高年の女性、糖尿病や関節リウマチ、透析治療中の方などで起こりやすい傾向があります。また、小児では親指に起こる「小児ばね母指」がみられることがあります。
症状の程度は、痛み、引っかかりの強さ、指の動き、日常生活や仕事への影響によって異なります。
治療方針は、症状の程度、発症からの期間、指の動き、持病、仕事や生活での手の使用状況などを踏まえて総合的に判断します。
実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、仕事や生活環境、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。
2.原因と症状
ばね指の主な原因は、指を曲げる腱や腱鞘に繰り返し負担がかかることによる炎症や肥厚です。腱や腱鞘が腫れると、腱の通り道が狭くなり、指の曲げ伸ばしがスムーズにできなくなります。
発症や進行に関係する要因
- 手や指をよく使う仕事
- 家事、育児、介護などによる手指の反復使用
- パソコン作業、スマートフォン操作
- 工具作業、園芸、裁縫、楽器演奏などの細かい手作業
- 強く握る、つまむ動作の反復
- 加齢に伴う腱や腱鞘の変化
- 女性、更年期以降
- 妊娠、出産前後
- 糖尿病
- 関節リウマチ
- 透析治療
- 痛風、アミロイドーシスなどの全身疾患
- 過去の手指のけが
- 原因がはっきりしないもの
代表的な症状
主な症状は、指の付け根の痛みと、指の曲げ伸ばし時の引っかかりです。特に朝起きた時に症状が強く、日中に動かしているうちに軽くなることがあります。
そのほか、以下の症状がみられる場合があります。
- 指の付け根が痛い
- 手のひら側の指の付け根を押すと痛い
- 指を曲げ伸ばしすると引っかかる
- 指がカクンとはねる
- 指を伸ばす時に痛みが出る
- 朝、指がこわばる
- 指が曲がったまま伸びにくい
- 反対の手で伸ばさないと戻らない
- 指を動かすと音や違和感がある
- 指の付け根にしこりのようなものを触れる
- 握る動作がしにくい
- 物を持つ、つまむ、ペンを使う動作がつらい
- 症状が進むと指が動かしにくくなる
- 複数の指に症状が出ることがある
軽症では痛みだけで、明らかな引っかかりがない場合もあります。進行すると、指の曲げ伸ばしの途中で腱が引っかかり、ばねのように急に動く「弾発現象」がみられます。
指が完全に伸びない、曲がったまま戻らない状態が長く続くと、関節が硬くなり、治療後も動きの回復に時間がかかることがあります。
急に強い腫れや赤み、熱感が出た場合、発熱を伴う場合、外傷後に指が動かない場合、強いしびれや麻痺を伴う場合は、感染症、腱断裂、骨折、関節炎、神経障害など別の疾患が関係していることもあるため、早めの受診が必要です。
3.検査
ばね指の診断では、痛みの部位、引っかかりの有無、症状が出る時間帯、仕事や家事での手の使い方、持病などを確認したうえで、指や手の状態を診察します。
主な検査には以下があります。
問診・診察
指の付け根の圧痛、腫れ、しこり、引っかかり、弾発現象、指の可動域などを確認します。実際に指を曲げ伸ばししてもらい、腱の動きや引っかかる部位を評価します。手のひら側の指の付け根に痛みや腱の肥厚を触れることがあります。
X線検査
超音波検査
MRI検査
血液検査
4.治療
ばね指の治療は、痛みや炎症の軽減、腱の滑走の改善、指の動きの回復、再発予防を目的に行います。症状が軽い場合は保存療法から開始し、改善が乏しい場合や指がロックする場合には注射治療や手術療法を検討します。
主な治療には以下があります。
生活指導、手指への負担軽減
痛みを強くする動作を一時的に減らし、指への負担を軽くします。強く握る、長時間つまむ、反復して指を曲げ伸ばしする作業は症状に応じて調整します。
家事や仕事では、道具のグリップを太くする、荷物を小分けにする、作業の合間に休憩を入れる、同じ指に負担が集中しないようにするなどの工夫が有効な場合があります。
安静、装具療法
症状が強い時期には、指を休ませることが重要です。夜間や作業時に、指の曲げ伸ばしを制限する装具やスプリントを使用することがあります。特に朝のこわばりや引っかかりが強い場合、夜間装具が有効なことがあります。
薬物療法
物理療法
温熱療法、寒冷療法、電気治療などが症状に応じて行われることがあります。慢性的なこわばりがある場合には温めることで動かしやすくなることがあります。一方、腫れや熱感が強い場合には冷却が有効な場合があります。
運動療法、作業療法
痛みを悪化させない範囲で、指の可動域を保つ運動や腱の滑走を促す運動を行うことがあります。指を全く動かさない状態が続くと関節が硬くなることがあるため、医師や作業療法士の指導のもとで状態に合わせて行います。
強い痛みや引っかかりを無理に繰り返すと症状が悪化することがあるため注意が必要です。
腱鞘内注射
痛みや引っかかりが強い場合には、腱鞘内へのステロイド注射が検討されることがあります。炎症や腫れを抑えることで、痛みや弾発現象の改善が期待できます。
ただし、効果の持続には個人差があり、再発することもあります。糖尿病がある方では、注射後に血糖値が上がることがあるため注意が必要です。また、繰り返しの注射では腱や皮膚、皮下組織への影響に注意が必要です。注射の適応や回数、間隔は医師が個別に判断します。
手術療法
保存療法や注射治療で改善しない場合、指のロックが強い場合、日常生活や仕事への支障が大きい場合、再発を繰り返す場合には手術療法が検討されます。
代表的な手術は腱鞘切開術です。狭くなったA1 pulleyを切開し、腱がスムーズに動くようにします。通常は局所麻酔で行われることが多く、皮膚を切開して直接確認する方法や、小さな切開で行う方法があります。
手術後は、指の動きを保つために早期から曲げ伸ばしを行うことがあります。ただし、創部の状態や痛みに応じて進めます。痛みや腫れ、こわばりが残る場合には、リハビリテーションや作業療法を行うことがあります。
治療にはそれぞれ利点と注意点があります。注射や手術を行った場合も、感染、出血、腱損傷、神経障害、皮膚や皮下脂肪の萎縮、痛みの残存、指のこわばり、再発などのリスクがあり、治療後の経過観察が重要です。
5.合併症
ばね指が長引くと、指の痛みや引っかかりだけでなく、手全体の使い方や日常生活にも影響することがあります。
主な合併症・関連する問題には以下があります。
- 指のロック
指が曲がったまま伸びない、または伸びたまま曲がりにくい状態になることがあります。反対の手で補助しないと動かせない場合もあります。 - 関節拘縮
指を動かしにくい状態が続くと、関節が硬くなり、指の曲げ伸ばしの範囲が狭くなることがあります。特にロックした状態が長く続く場合は注意が必要です。 - 慢性的な痛み
腱や腱鞘の炎症が続くと、指の付け根の痛みが長引くことがあります。物を握る、つまむなどの日常動作で痛みが出やすくなります。 - 握力、つまみ力の低下
痛みや引っかかりにより、物をしっかり握る、つまむ、持ち上げる動作がしにくくなることがあります。 - 日常生活動作の制限
ペンを持つ、箸を使う、ボタンをかける、包丁を使う、スマートフォンを操作する、家事や仕事を行うなどの動作に支障が出ることがあります。 - 複数指への発症
糖尿病や関節リウマチ、透析治療中の方などでは、複数の指にばね指が起こることがあります。また、治療後に別の指に症状が出る場合もあります。 - 腱や腱鞘の肥厚、しこり感
炎症が長引くと、腱や腱鞘が厚くなり、指の付け根にしこりのようなものを触れることがあります。 - ほかの疾患の見落とし
ばね指と思われる症状の中に、関節リウマチ、変形性指関節症、腱断裂、感染症、ガングリオン、デュピュイトラン拘縮、神経障害などが隠れている場合があります。症状が強い場合や長引く場合、しびれや強い腫れを伴う場合は再評価が重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
