肩関節周囲炎
1.疾患の概要
肩関節周囲炎とは、肩関節の周囲にある関節包、腱、滑液包、靱帯などに炎症が起こり、肩の痛みや動かしにくさが生じる病気です。一般に「四十肩」「五十肩」と呼ばれることもあります。
肩関節は、腕を前後左右に大きく動かすことができる関節です。その一方で、関節の周囲には腱板、関節包、滑液包など多くの組織があり、加齢や肩への負担、炎症などにより痛みが出やすい部位でもあります。
肩関節周囲炎では、初期には肩を動かした時の痛みや夜間痛が目立ちます。進行すると、肩関節の動きが硬くなり、腕を上げる、背中に手を回す、服を着替える、髪を洗うなどの日常生活動作が難しくなることがあります。
症状は数か月から1年以上かけて変化することがあり、痛みが強い時期、肩が硬くなる時期、徐々に動きが改善する時期をたどる場合があります。ただし、症状の経過や回復の程度には個人差があります。
肩の痛みの原因には、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症、頚椎疾患、関節リウマチ、感染症など、ほかの病気が関係している場合もあります。そのため、痛みの部位、動きの制限、画像検査などを総合的に評価して診断します。
実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、仕事やスポーツの内容、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。
2.原因と症状
肩関節周囲炎の原因は一つではありません。加齢に伴う肩関節周囲の組織の変化、関節包の炎症や硬さ、腱や滑液包の炎症、肩の使いすぎ、運動不足などが関係すると考えられています。
発症や進行に関係する要因
- 加齢
- 肩の使いすぎ、反復動作
- 肩をあまり動かさない生活
- 姿勢不良、猫背
- 肩周囲や肩甲骨周囲の筋力低下
- 糖尿病
- 甲状腺疾患
- 脂質異常症などの代謝性疾患
- 外傷後や手術後の固定、安静期間
- 外傷後や手術後の固定、安静期間
- 腱板炎、腱板損傷
- 石灰沈着性腱板炎
- 上腕二頭筋長頭腱炎
- 肩峰下滑液包炎
- 頚椎疾患との関連
- 過去の肩のけが
代表的な症状
主な症状は、肩の痛みと可動域制限です。初期には、腕を上げる、後ろに回す、物を取るなどの動作で痛みが出ることがあります。夜間に痛みが強くなり、寝返りや患側を下にして寝ることがつらい場合もあります。
そのほか、以下の症状がみられる場合があります。
- 肩を動かすと痛い
- 腕を上げにくい
- 肩がこわばる
- 夜間痛がある
- 寝返りで痛みが出る
- 服の着替えがしにくい
- 髪を洗う、髪を結ぶ動作がつらい
- エプロンのひもを結ぶ、背中に手を回す動作が難しい
- 洗濯物を干す、高い棚の物を取る動作がつらい
- 車のシートベルトを取る動作が痛い
- 腕を外側に開きにくい
- 肩から上腕にかけて痛みが広がる
- 肩を動かすと引っかかる感じがする
- 痛みのため肩を使わなくなり、さらに動きが悪くなる
肩関節周囲炎では、他人に腕を動かしてもらっても肩の動きが制限されることがあります。一方、腱板断裂などでは、自分では腕を上げにくいものの、他人が動かすと比較的動く場合があります。症状だけでは区別が難しいこともあるため、診察や検査が重要です。
急に強い痛みが出た場合、外傷後に腕が上がらない場合、肩が赤く腫れて熱を持つ場合、発熱を伴う場合、しびれや麻痺がある場合、胸痛や息苦しさを伴う場合は、骨折、脱臼、感染症、神経障害、心臓や肺の病気などが関係していることもあるため、早めの受診が必要です。
3.検査
肩関節周囲炎の診断では、痛みの出方、症状の経過、肩を動かしにくい方向、夜間痛の有無、仕事やスポーツへの影響、過去のけがや持病などを確認したうえで、肩関節の状態を診察します。
主な検査には以下があります。
問診・診察
痛みが出る動作、肩の可動域、圧痛の部位、筋力、肩甲骨の動き、姿勢、頚椎や神経症状の有無などを確認します。自分で動かす可動域と、医師が動かす可動域の両方を評価します。腱板損傷やインピンジメント、頚椎疾患との鑑別も行います。
X線検査
超音波検査
MRI検査
CT検査
血液検査
関節液検査
4.治療
肩関節周囲炎の治療は、痛みの軽減、肩関節の動きの改善、日常生活動作の回復、再発予防を目的に行います。多くの場合は保存療法を中心に治療しますが、症状が長期間続く場合や日常生活への支障が大きい場合には、注射や処置、手術療法が検討されることがあります。
主な治療には以下があります。
生活指導
痛みが強い時期には、無理に肩を動かしすぎないことが大切です。重い物を持つ、高い所の物を取る、急に腕をひねるなど、痛みを強くする動作は症状に応じて調整します。
一方で、肩をまったく動かさない状態が続くと関節が硬くなることがあるため、痛みの程度に合わせて無理のない範囲で動かすことも重要です。睡眠時には、腕の下にクッションを置くなど、肩に負担がかかりにくい姿勢を工夫します。
薬物療法
痛みに応じて、外用薬、内服薬、坐薬などが使用されます。非ステロイド性抗炎症薬などは痛みや炎症を抑える目的で使われますが、胃腸障害、腎機能障害、心血管系への影響などに注意が必要な場合があります。持病や併用薬を踏まえて選択します。
物理療法
運動療法・リハビリテーション
肩関節周囲炎では、時期に合わせたリハビリテーションが重要です。痛みが強い時期には、無理なストレッチを避け、振り子運動など負担の少ない運動から開始します。痛みが落ち着いてきたら、肩関節の可動域訓練、ストレッチ、肩甲骨周囲の筋力訓練、腱板機能の改善、姿勢指導などを段階的に行います。
強い痛みを我慢して無理に動かすと炎症が悪化することがあるため、医師や理学療法士の指導のもとで状態に合わせて進めます。
関節内注射、滑液包注射
痛みや炎症が強い場合には、肩関節内や肩峰下滑液包にステロイド薬や局所麻酔薬などを注射することがあります。注射により痛みが軽減し、リハビリテーションを進めやすくなる場合があります。
糖尿病がある方では、ステロイド注射後に血糖値が上がることがあるため注意が必要です。注射の適応や回数、間隔は症状や全身状態を踏まえて判断します。
関節包拡張注射
肩関節の硬さが強い場合に、関節内へ薬液を注入して関節包を広げる治療が検討されることがあります。肩の動きの改善を目的に、リハビリテーションと組み合わせて行われる場合があります。
神経ブロック
痛みが強い場合には、肩周囲の痛みを和らげる目的で神経ブロックが検討されることがあります。痛みを抑えることで睡眠やリハビリテーションが行いやすくなる場合があります。
手術療法、麻酔下授動術
保存療法を継続しても強い痛みや可動域制限が残り、日常生活への支障が大きい場合には、麻酔下授動術や関節鏡手術が検討されることがあります。
麻酔下授動術は、麻酔をかけた状態で固くなった肩関節を動かし、可動域の改善を図る方法です。関節鏡手術では、関節内を確認しながら硬くなった関節包を切開する関節包解離術などを行うことがあります。
腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、関節唇損傷など別の病変が原因となっている場合には、それぞれに応じた手術が検討されることがあります。
治療にはそれぞれ利点と注意点があります。手術や処置を行った場合も、感染、出血、神経障害、骨折、脱臼、痛みの残存、再拘縮などのリスクがあり、治療後のリハビリテーションと定期的な経過観察が重要です。
5.合併症
肩関節周囲炎が長引くと、肩の痛みや可動域制限だけでなく、日常生活や全身状態にも影響することがあります。
主な合併症・関連する問題には以下があります。
- 肩関節拘縮
肩を動かさない状態が続くと、関節包や周囲組織が硬くなり、肩の動きが制限されます。腕を上げる、外に開く、背中に回すなどの動作が難しくなることがあります。 - 慢性的な痛み
炎症や拘縮が長引くと、肩の痛みが慢性化することがあります。夜間痛が続くと睡眠の質が低下する場合もあります。 - 筋力低下、廃用
痛みを避けて肩や腕を使わない状態が続くと、肩周囲や肩甲骨周囲の筋力が低下します。筋力低下により、さらに肩を動かしにくくなることがあります。 - 日常生活動作の制限
着替え、洗髪、入浴、家事、運転、荷物を持つ動作などに支障が出ることがあります。仕事やスポーツ活動が制限される場合もあります。 - 首、背中、肘、手首への負担
肩の動きをかばうことで、首や背中、肘、手首に負担がかかり、別の部位の痛みにつながることがあります。 - 反対側の肩への負担
痛い肩を使わないことで、反対側の肩を過度に使い、反対側にも痛みが出る場合があります。 - 睡眠障害、生活の質の低下
夜間痛や寝返り時の痛みにより眠りが浅くなり、疲労感や日中の活動量低下につながることがあります。 - ほかの疾患の見落とし
肩関節周囲炎と思われる症状の中に、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、頚椎疾患、感染症、腫瘍、心臓や肺の病気などが隠れていることがあります。症状が強い場合や長引く場合は再評価が重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
