社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院
Fukuoka Wajiro Hospital

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肩・肘・手

肘部管症候群

1.疾患の概要

肘部管症候群とは、肘の内側を通る尺骨神経が圧迫されたり、引き伸ばされたりすることで、小指側のしびれや手の動かしにくさが生じる病気です。

尺骨神経は、肘の内側にある「肘部管」という狭いトンネルを通って前腕から手へ向かいます。この神経は、小指と薬指の一部の感覚や、手指を細かく動かす筋肉の働きに関係しています。そのため、尺骨神経が障害されると、小指・薬指のしびれ、手の筋力低下、細かい作業のしにくさなどが現れます。

初期には、肘を曲げている時や肘をついた時に、小指側がしびれる程度のことがあります。進行すると、しびれが持続し、手の筋肉がやせる、箸が使いにくい、ボタンをかけにくい、物を落としやすいなどの日常生活への支障が出ることがあります。

肘部管症候群は、長時間の肘曲げ姿勢、肘への圧迫、加齢に伴う肘関節の変形、過去の骨折や外傷、スポーツや仕事による反復動作などが関係して発症することがあります。
 

治療方針は、しびれの程度、筋力低下の有無、神経障害の進行度、原因となる肘の変形や腫瘤の有無、仕事や日常生活への影響などを踏まえて総合的に判断します。

実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、仕事やスポーツの内容、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。

2.原因と症状

肘部管症候群は、肘の内側で尺骨神経が圧迫されることや、肘を曲げることで神経が引き伸ばされることにより起こります。肘部管はもともと狭い構造であり、肘の変形や腫れ、周囲組織の肥厚などがあると神経が障害されやすくなります。

発症や進行に関係する要因

  • 長時間肘を曲げる姿勢
  • 机や肘掛けに肘をつく習慣
  • 睡眠中に肘を強く曲げる姿勢
  • 肘を使う仕事やスポーツによる反復動作
  • 野球、柔道、重量物作業など肘に負担がかかる活動
  • 加齢に伴う肘関節の変形
  • 変形性肘関節症
  • 過去の肘の骨折、脱臼、靱帯損傷
  • 外反肘などの肘の変形
  • ガングリオン、腫瘤、滑膜炎などによる圧迫
  • 関節リウマチなどの炎症性疾患
  • 糖尿病、腎疾患、甲状腺疾患など神経障害に関係する持病
  • 透析治療に関連する組織変化
  • 神経が肘の内側でずれやすい体質

代表的な症状

主な症状は、小指と薬指のしびれです。特に、肘を曲げている時、電話を持つ時、読書やスマートフォン操作をしている時、睡眠中や起床時にしびれが強くなることがあります。

そのほか、以下の症状がみられる場合があります。

  • 小指、薬指の小指側がしびれる
  • 手の小指側に感覚の鈍さがある
  • 肘の内側から前腕、小指側にかけて痛みや違和感がある
  • 肘を曲げるとしびれが強くなる
  • 肘の内側をたたくと小指側に響く
  • 手に力が入りにくい
  • 握力が低下する
  • 物を落としやすい
  • 箸が使いにくい
  • ボタンをかけにくい
  • 字を書きにくい
  • キーボード操作や細かい作業がしにくい
  • 指を開いたり閉じたりしにくい
  • 小指が外側に開いて戻しにくい
  • 親指と人差し指で紙をつまみにくい
  • 手の甲や手のひらの小指側の筋肉がやせる
  • 進行すると手指がかぎ爪のように曲がる

初期にはしびれが一時的で、肘の姿勢を変えると改善することがあります。しかし、神経障害が進行すると、しびれが持続し、筋力低下や筋萎縮が目立つようになります。筋肉のやせが進んだ場合、治療後も回復に時間がかかることがあります。

 

急に手が動かしにくくなった場合、しびれや麻痺が急速に悪化する場合、外傷後に強い痛みや変形がある場合、首から腕全体にかけて強い痛みやしびれがある場合は、頚椎疾患、脳血管障害、骨折、脱臼、ほかの神経障害などが関係していることもあるため、早めの受診が必要です。

3.検査

肘部管症候群の診断では、しびれの部位、症状が出る姿勢、症状の経過、手の使いにくさ、仕事やスポーツへの影響、過去のけがや持病などを確認したうえで、肘から手にかけて診察します。

主な検査には以下があります。

問診・診察

小指・薬指の感覚、手指の筋力、手の筋肉のやせ、肘の変形、圧痛、肘を曲げた時の症状変化などを確認します。肘の内側をたたいて小指側にしびれが響くかをみるチネル徴候、肘を曲げた状態でしびれが誘発されるかをみる肘屈曲テストなどを行うことがあります。

また、親指と人差し指で紙をつまむ力を確認するフローマン徴候、小指が外側に開きやすいワーテンベルグ徴候などを確認する場合があります。

X線検査

肘関節の変形、骨棘、過去の骨折後変形、外反肘、変形性肘関節症などを確認します。尺骨神経そのものはX線には写りませんが、神経を圧迫する原因となる骨の異常を調べるために有用です。

神経伝導検査、筋電図検査

尺骨神経の伝わり方や筋肉への影響を調べる検査です。神経障害の場所や程度を評価でき、治療方針を決めるうえで重要です。頚椎疾患や手首での尺骨神経障害など、ほかの神経障害との鑑別にも役立ちます。

超音波検査

尺骨神経の腫れ、圧迫部位、神経の脱臼や亜脱臼、ガングリオンなどの腫瘤、周囲組織の状態を確認できます。肘を動かしながら神経の動きを評価できる場合もあります

MRI検査

ガングリオン、腫瘤、滑膜炎、神経周囲の異常、肘関節内の病変などを詳しく確認する検査です。症状が強い場合、原因がはっきりしない場合、手術を検討する場合などに行われることがあります。

CT検査

肘関節の骨の変形、骨棘、骨折後の変形などを詳しく確認する目的で行われることがあります。手術前の評価に用いられる場合もあります。

血液検査

糖尿病、関節リウマチ、甲状腺疾患、炎症性疾患など、神経障害や関節病変に関係する持病が疑われる場合に行われることがあります。
肘部管症候群と似た症状を起こす病気には、頚椎症性神経根症、胸郭出口症候群、手首で尺骨神経が圧迫されるギヨン管症候群、手根管症候群、糖尿病性神経障害などがあります。検査結果だけでなく、症状の分布や診察所見を含めて総合的に判断します。

4.治療

肘部管症候群の治療は、尺骨神経への圧迫や牽引を減らし、しびれや痛みを軽減し、手の機能低下を防ぐことを目的に行います。症状が軽い場合は保存療法から開始し、筋力低下や筋萎縮がある場合、神経障害が進行している場合、保存療法で改善が乏しい場合には手術療法を検討します。

主な治療には以下があります。

生活指導、肘への負担軽減

肘を長時間曲げた姿勢を避け、肘の内側を机や肘掛けに強く押しつけないようにします。スマートフォン操作、読書、電話、運転、睡眠時の姿勢などで肘が深く曲がり続けないよう工夫します。デスクワークでは肘にクッションを置く、肘をつかない姿勢を意識するなどが有効な場合があります。

装具療法

夜間に肘を強く曲げてしまう場合には、肘を軽く伸ばした位置で保つ装具やサポーターを使用することがあります。睡眠中の神経への負担を減らし、朝方のしびれを軽減する目的で行います。

薬物療法

痛みや炎症がある場合には、外用薬や内服薬が使用されることがあります。非ステロイド性抗炎症薬などは痛みを抑える目的で使われますが、胃腸障害、腎機能障害、持病、併用薬などに注意が必要です。しびれや神経痛が強い場合には、神経障害性疼痛に対する薬剤が検討されることもあります。

リハビリテーション、作業療法

肘や手指の動き、筋力、日常生活動作を評価し、症状に応じて運動療法や動作指導を行います。神経の滑走を促す運動が検討されることもありますが、強いしびれや痛みを誘発するような無理な運動は避けます。手の筋力低下がある場合には、細かい動作の練習や生活上の工夫も重要です。

原因疾患への対応

変形性肘関節症、関節リウマチ、ガングリオン、腫瘤、外傷後変形などが原因となっている場合には、それぞれに応じた治療を検討します。糖尿病など神経障害に影響する持病がある場合には、全身管理も重要です。

注射治療

肘周囲の炎症や痛みに対して注射が検討される場合もありますが、尺骨神経の近くで行うため、適応は慎重に判断されます。注射の種類や方法は、症状や原因、全身状態を踏まえて医師が判断します。

手術療法

しびれが強い場合、筋力低下や筋萎縮がある場合、神経伝導検査で高度の障害がある場合、保存療法で改善しない場合、骨棘や腫瘤など明らかな圧迫原因がある場合には、手術療法が検討されます。

代表的な手術には、尺骨神経を圧迫している靱帯や周囲組織をゆるめる肘部管開放術、尺骨神経を肘の前方へ移動させる尺骨神経前方移行術、内側上顆の一部を処置して神経の緊張を減らす手術などがあります。骨棘やガングリオンなどが原因の場合には、それらを取り除くこともあります。

手術により神経への圧迫を減らすことで、しびれや痛みの改善、進行予防が期待できます。ただし、筋肉のやせや感覚低下が長期間続いていた場合、回復には時間がかかり、症状が残ることもあります。術後は、創部の管理、肘や手指の動きの回復、筋力訓練、日常生活動作の練習を段階的に行います。

治療にはそれぞれ利点と注意点があります。手術を行った場合も、感染、出血、血腫、神経障害、しびれや痛みの残存、瘢痕部の痛み、肘のこわばり、再発などのリスクがあり、術後の経過観察とリハビリテーションが重要です。

5.合併症

肘部管症候群が進行すると、しびれだけでなく手の運動機能にも影響し、日常生活や仕事に支障が出ることがあります。

主な合併症・関連する問題には以下があります。

  • しびれ、感覚障害の持続
    小指・薬指のしびれや感覚低下が持続することがあります。感覚が鈍くなると、細かい作業がしにくくなるだけでなく、熱い物や鋭い物に気づきにくくなる場合があります。
  • 手内在筋の筋力低下、筋萎縮
    尺骨神経は手の細かい動きを担う筋肉に関係しています。神経障害が進むと、手の甲や手のひらの筋肉がやせ、指を開く、閉じる、つまむなどの動作が弱くなることがあります。
  • 巧緻運動障害
    箸を使う、字を書く、ボタンをかける、硬貨をつまむ、キーボードを打つなど、細かい作業が難しくなることがあります。仕事や家事、趣味に影響する場合があります。
  • 握力、つまみ力の低下
    握る力や親指と人差し指でつまむ力が低下し、物を落としやすくなることがあります。
  • かぎ爪変形
    進行すると、小指や薬指が伸ばしにくくなり、指がかぎ爪のように曲がった姿勢になることがあります。変形が進むと、手の機能回復が難しくなる場合があります。
  • 慢性的な痛み、違和感
    肘の内側から前腕、小指側にかけて痛みや違和感が続くことがあります。夜間のしびれや痛みにより睡眠が妨げられることもあります。
  • 仕事やスポーツへの支障
    手の力や細かい動作が必要な作業、楽器演奏、スポーツ、重量物作業などに支障が出ることがあります。
  • ほかの神経障害との合併、見落とし
    頚椎疾患、手首での尺骨神経障害、糖尿病性神経障害などが合併している場合、症状が複雑になることがあります。症状が改善しにくい場合は再評価が重要です。
また、手術療法を行う場合には、感染、出血、血腫、創部治癒不良、神経・血管損傷、しびれや痛みの残存、肘の可動域制限、瘢痕部の痛み、神経の再圧迫、再手術の可能性などがあります。リスクは患者さんの状態や神経障害の程度、手術方法によって異なるため、治療前に十分な説明を受けることが重要です。

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※注釈
この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。