TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
1.疾患の概要
TFCC損傷とは、手首の小指側にあるTFCC(三角線維軟骨複合体)が傷つくことで、手首の小指側の痛みや不安定感が生じる病気です。
TFCCは、尺骨という前腕の小指側の骨と、手首の骨の間にある軟骨や靱帯からなる複合組織です。手首を安定させる、手をついた時の衝撃を吸収する、前腕をひねる動作を支えるなどの重要な役割があります。
TFCC損傷は、転倒して手をついた時、手首を強くひねった時、スポーツや仕事で手首に繰り返し負担がかかった時などに起こります。また、尺骨が橈骨より長い「尺骨プラス変異」や、尺骨突き上げ症候群などが背景にある場合、加齢性変化により徐々に傷むこともあります。
主な症状は、手首の小指側の痛みです。ドアノブを回す、瓶のふたを開ける、タオルをしぼる、手をついて立ち上がる、重い物を持つなどの動作で痛みが出やすくなります。損傷の程度によっては、手首の引っかかり感、クリック音、ぐらつき、握力低下がみられることもあります。
症状の程度は、損傷の部位や大きさ、手首の不安定性、尺骨の長さ、仕事やスポーツでの負担によって異なります。画像検査だけでは判断が難しい場合もあり、症状、診察所見、画像検査を総合して治療方針を決めます。
実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、仕事やスポーツの内容、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。
2.原因と症状
TFCC損傷には、けがをきっかけに起こる外傷性のものと、繰り返しの負担や加齢性変化により徐々に起こる変性性のものがあります。
発症や進行に関係する要因
- 転倒して手をついた外傷
- 手首を強くひねったけが
- スポーツ中の手首への負担
- テニス、バドミントン、野球、ゴルフ、体操、柔道などの競技
- 腕立て伏せ、重量挙げ、トレーニングなど手をつく動作
- 工具作業、介護、調理など手首をよく使う仕事
- タオルをしぼる、瓶のふたを開けるなどの反復動作
- 尺骨プラス変異
- 尺骨突き上げ症候群
- 橈骨遠位端骨折後の変形
- 遠位橈尺関節の不安定性
- 加齢に伴う軟骨や靱帯の変性
- 過去の手首の骨折、脱臼、靱帯損傷
- 関節リウマチなどの炎症性関節疾患
代表的な症状
主な症状は、手首の小指側の痛みです。特に、手首をひねる動作や、手をついて体重をかける動作で痛みが出やすくなります。
そのほか、以下の症状がみられる場合があります。
- 手首の小指側が痛い
- ドアノブを回すと痛い
- 瓶のふたやペットボトルを開けると痛い
- タオルや雑巾をしぼると痛い
- 手をついて立ち上がると痛い
- 腕立て伏せの姿勢で痛い
- 重い物を持つと痛い
- 前腕をひねると痛い
- 手首を小指側に倒すと痛い
- 手首を動かすとクリック音や引っかかり感がある
- 手首がぐらつく、不安定に感じる
- 握力が低下する
- スポーツや仕事で力が入りにくい
- 手首の小指側が腫れる
- 慢性的な違和感が続く
傷が軽い場合は、特定の動作でのみ痛みが出ることがあります。一方で、TFCCの周辺部損傷や遠位橈尺関節の不安定性を伴う場合は、手首のぐらつきや力の入りにくさが目立つことがあります。
外傷後に強い痛みや腫れがある場合、手首を動かせない場合、手や指のしびれがある場合、手首の変形がある場合、発熱や赤み・熱感を伴う場合は、骨折、脱臼、感染症、神経障害、関節炎など別の疾患が関係していることもあるため、早めの受診が必要です。
3.検査
TFCC損傷の診断では、痛みの部位、症状が出る動作、受傷時の状況、仕事やスポーツでの負担、過去の手首のけがなどを確認したうえで、手首の状態を診察します。
主な検査には以下があります。
問診・診察
手首の小指側の圧痛、腫れ、可動域、握力、手首をひねった時の痛み、遠位橈尺関節の不安定性などを確認します。TFCC付着部の圧痛をみる検査、手首に圧をかけながら動かして痛みを誘発する検査、前腕の骨のぐらつきをみる検査などを行うことがあります。
X線検査
ストレスX線検査
MRI検査
MR関節造影検査
CT検査
超音波検査
関節鏡検査
血液検査
4.治療
TFCC損傷の治療は、痛みの軽減、手首の安定性の改善、握力や日常生活動作の回復、再発予防を目的に行います。損傷の程度や部位、遠位橈尺関節の不安定性の有無、尺骨の長さ、仕事やスポーツへの影響などを踏まえて治療方針を決めます。
主な治療には以下があります。
生活指導、負担の調整
痛みを強くする動作を一時的に減らし、TFCCへの負担を軽くします。手首を強くひねる動作、手をついて体重をかける動作、重い物を持つ動作、タオルを強くしぼる動作などは症状に応じて調整します。仕事やスポーツでは、フォームや道具、作業姿勢の見直しも重要です。
固定、装具療法
痛みが強い時期や急性損傷では、手首を安静に保つためにサポーター、スプリント、ギプスなどで固定することがあります。遠位橈尺関節の安定性を保つため、前腕の回旋を制限する装具を使用する場合もあります。固定期間や固定範囲は、損傷の程度や症状に応じて判断されます。
薬物療法
リハビリテーション、作業療法
痛みが落ち着いてきたら、手首や前腕の可動域訓練、握力訓練、前腕や手指の筋力訓練、日常生活動作の指導を段階的に行います。手首に過度な負担をかけずに使う方法を身につけることも重要です。強い痛みを我慢して無理に動かすと症状が悪化することがあるため、医師や作業療法士の指導のもとで進めます。
注射治療
痛みや炎症が強い場合には、関節内や痛みの部位へのステロイド注射などが検討されることがあります。注射により痛みが軽減し、リハビリテーションを進めやすくなる場合があります。効果の持続には個人差があり、注射の適応や回数、間隔は医師が個別に判断します。
手術療法
保存療法で十分な改善が得られない場合、手首の不安定性が強い場合、スポーツや仕事への支障が大きい場合、尺骨突き上げ症候群を伴う場合などには、手術療法が検討されます。
代表的な手術には、関節鏡を用いたTFCC部分切除術、TFCC縫合術、TFCC修復術、尺骨短縮骨切り術、関節形成術などがあります。
中央部の損傷では、血流が少なく自然修復しにくいことがあり、傷んだ部分を整える関節鏡下部分切除が検討されることがあります。
周辺部の損傷では、血流が比較的保たれているため、縫合や修復が検討されることがあります。
尺骨が長く、尺骨突き上げ症候群が関係している場合には、尺骨短縮骨切り術や関節鏡下 wafer手術など、尺骨側の負担を減らす手術が検討されることがあります。
遠位橈尺関節の不安定性が強い場合には、TFCCの修復や靱帯再建などが必要になることがあります。
手術の種類は、損傷部位、損傷の新しさ、手首の不安定性、尺骨の長さ、骨や軟骨の状態、年齢、活動量、仕事やスポーツの内容などを考慮して選択されます。
治療にはそれぞれ利点と注意点があります。手術を行った場合も、感染、出血、神経障害、手首のこわばり、痛みの残存、握力低下、骨癒合不全、固定材料の違和感、再発などのリスクがあり、術後のリハビリテーションと定期的な経過観察が重要です。
5.合併症
TFCC損傷が長引くと、手首の痛みだけでなく、握力や手首の安定性、仕事やスポーツ活動にも影響することがあります。
主な合併症・関連する問題には以下があります。
- 慢性的な手首小指側の痛み
損傷部への負担が続くと、手首の小指側の痛みが長期間続くことがあります。ひねる動作や手をつく動作で痛みが出やすくなります。 - 握力低下
痛みや不安定性により、物を強く握る、持ち上げる、ひねる動作が難しくなることがあります。 - 遠位橈尺関節の不安定性
TFCCは遠位橈尺関節の安定性に重要です。損傷が進むと、前腕をひねる時にぐらつきや痛みが出ることがあります。 - 手首の可動域制限、こわばり
痛みや固定期間の影響により、手首や前腕の動きが硬くなることがあります。特に、回内・回外と呼ばれる前腕をひねる動きが制限される場合があります。 - クリック音、引っかかり感の持続
関節内の損傷や不安定性により、手首を動かした時の音や引っかかり感が残ることがあります。 - 尺骨突き上げ症候群の進行
尺骨が長い場合や尺骨側への負担が強い場合、TFCCや手根骨の軟骨障害が進み、痛みが慢性化することがあります。 - 手首周囲の腱障害
手首をかばう動作が続くと、尺側手根伸筋腱炎など、周囲の腱に炎症や痛みが生じることがあります。 - 仕事やスポーツへの支障
手首をひねる、支える、握る動作が必要な仕事やスポーツで支障が出ることがあります。復帰には、痛み、握力、可動域、手首の安定性を確認しながら進めることが重要です。 - 再発、症状の再燃
痛みが軽くなった後も、原因となる動作や負担が続くと再発することがあります。再発予防には、負担の調整、装具の使用、筋力訓練、作業やフォームの見直しが重要です。 - ほかの疾患の見落とし
TFCC損傷と思われる症状の中に、骨折、靱帯損傷、尺骨突き上げ症候群、腱障害、関節リウマチ、ガングリオンなどが隠れている場合があります。症状が長引く場合や改善しにくい場合は再評価が重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
