社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院
Fukuoka Wajiro Hospital

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乳腺外科

乳がんの治療と妊娠・出産

乳がんの治療と妊娠、出産は両立できますか?

現代社会では環境やライフスタイルの変化、晩婚化により、出産を希望する年齢が高齢化しています。人口動態調査によると、35歳以上で出産する者が2005年度は全体の16.4%であったのに対し、2015年度は全体の28.0%を占めていました。高齢出産は母体へのリスクを上昇させる一方、流産や早産のリスクが高まることがわかっています。
 

卵巣内の卵子のすべては、胎児期に「卵子のもと」が分裂を繰り返して出来上がり、それ以降増加することはありません。排卵が始まる思春期の初経から生殖年齢・閉経に向けて「卵子のもと」は徐々に少なくなり、また加齢に伴い物理的・化学的刺激を受けて「卵子の質」も衰えてきますから、実際に出産を希望された時点ですでに妊娠しにくい状況にある可能性があります。これらのことから30代中盤から生殖能は低下し、42 ~ 43歳が自然妊娠の限界と考えられています。また年齢が上がるにつれ妊娠後の流産率が高くなることから、出産できる確率はさらに低下することが知られています。
 

乳がんを治療していく過程で薬物(ホルモン療法・化学療法)を使用する患者さんが多くいらっしゃいます(薬物療法~5つのサブタイプへ)。これらの治療は乳がんが再発しないように行われるものですが、閉経前の患者さんにとっては大きな問題を生じる恐れがあります。それは、患者さんの妊娠する能力を奪ってしまう可能性があることです。

ホルモン療法の問題点

乳がん患者さんの多くはホルモン療法の適応があります。ホルモン療法はお薬を毎日内服することが基本です。内服は基本的には5年間が勧められますが、患者さんのがんの状態によっては10年間内服が必要な場合があります。ホルモン療法中の性交渉は問題ありませんが、治療中はくすりによる催奇形性(胎児に悪い影響を与えてしまうこと)のため避妊が必要です。また、患者さんによっては月経を止める注射を行うこともあります。
 

仮に30歳で乳がんになってしまい、そこからホルモン療法を10年行ったとすると、治療が終了する頃には40歳になってしまいます。月経が正常に戻ったとしても30歳の頃と比べて年齢的に自然妊娠~出産が難しい状況になっています。

化学療法の問題点

化学療法とは、いわゆる抗がん剤を使った治療方法のことです。化学療法を行う期間は3か月から6か月(分子標的治療を併用する場合は1年間)です。治療期間はホルモン療法よりも短いのですが、卵巣に強いダメージを与えることが知られています。化学療法を開始するとほとんどの患者さんは月経が止まってしまいます。それは、化学療法によって卵巣の機能が低下してしまうからです。治療終了後、月経が再開する場合と再開しない場合がありますが、たとえ月経が再開しても、卵巣の機能は治療前よりは低下しており、閉経が早まったり、不妊になる可能性があります。

妊孕性(にんようせい)の温存

妊孕性(にんようせい)とは、妊娠する力のことを意味します。
 

若い患者さんに対するがん治療は、ホルモン療法によって長期間妊娠できない期間が生じたり、化学療法によって卵巣の機能そのものにダメージを与える可能性があります。つまり乳がんの治療の結果として将来子供を持つことが困難になるかもしれません。
 

ホルモン療法や化学療法のあと月経が再開するかどうかは予測困難であり、月経が再開したからといって妊娠が可能であるということではありません(年齢的に自然妊娠が困難である可能性もあります)。また卵巣機能には個人差が大きいことから、将来の出産を希望される場合は、薬物治療開始の前にその希望を担当医に伝える必要があります。
 

医療者と患者さんにとって、病気を克服することが最大のゴールであるため、これまでは、がん治療による妊孕性(にんようせい)の問題点を避けて通っていました。しかし最近では、医療技術の進歩やデータの蓄積によって一定の制限付きながら、妊孕性(にんようせい)を温存するための治療法も数多く行われるようになってきています。それは薬物治療開始前に行われる生殖補助技術による卵子、受精卵の凍結保存です。
 

将来の妊娠出産のためには、乳がん治療医ならびに生殖専門医とのコミュニケーションのもと、十分に検討する必要があります。乳がん治療医と生殖専門医から得た情報をもとに、自分のがんの予後や妊娠・出産の可能性を理解したうえで、現実的で、かつあなた自身が納得できる選択をすることが最も大切なことです。将来の妊娠・出産について悩みがある時は担当医にご相談ください。

小児・AYA世代がん患者等妊孕性(にんようせい)温存治療費助成事業のご案内

福岡県では、将来、子どもを持つことを望む小児・AYA世代(※)のがん患者さんが、希望を持ってがん治療に取り組むことができるよう支援するため、がん治療に際して行う、妊孕性(にんようせい)温存治療に要する費用を一部助成する事業を令和元年8月1日から実施しています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ AYA世代とは
AYA(アヤと読みます)世代とは、Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)のことをいい、15歳から39歳の患者さんがあてはまります。成長・発達段階で発症する可能性がある年代であり、肉腫など、AYA世代に多い特徴的ながんも存在します。患者さんも中学生から社会人、子育て世代とライフステージが大きく変化する年代であり、身体的な影響(がんそのものに加え、治療に伴う生殖機能への影響など)、社会的な影響(通勤や通学、就職、家族との関係、結婚や出産、経済的な負担など)をはじめとしてさまざまな課題を抱えているため、患者さん一人ひとりのニーズに合わせた支援が必要となります。