関節症センター
関節リウマチ、股関節、膝関節外科を中心とした関節症の治療を行っています。
膝・股関節外科においてはH19年に新しいリハビリであるPSTRエクササイズを開始して以来、“本当に必要な手術かどうかを適切に判断し、可能な場合は手術の回避・延期に務める”医療を行っています。
はじめに
PSTRエクササイズの効果を期待できる結果が得られました。
PSTRエクササイズは、変形性股関節・膝関節症の手術の回避・延期を目指すエクササイズです。当科と長野県佐久市浅間総合病院整形外科との多施設前向き単群研究の結果がCurrent Medical Research and Opinionに掲載されました。
※ PSTR:
Pericapsular Soft Tissue and Realignment(関節周囲軟部組織および再配列)
Hayashi K, Tsunoda T, Tobo Y, Ichikawa F, Shimose T. Effects of pericapsular soft tissue and realignment exercises for patients with osteoarthritis of the hip and Harris Hip Score below 60 points. Curr Med Res Opin. 2022 Jul 21; 1-12.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03007995.2022.2088716 (外部サイトへ移動)
要約
- 2017年8月~2020年4月までに福岡和白病院関節症センターと長野県浅間総合病院整形外科で変形性股関節症に対する多施設前向き単群研究が行われました。同期間に股関節痛で2施設を受診した657例の内Harris Hip Score(変形性股関節症の国際評価基準。正常は、100点で痛みなどの症状が強くなるほど点数は下がります。)60点未満の重度変形性股関節症193例においてPSTRエクササイズで有意な改善が得られました(P<0.001)(193例は、全例福岡和白病院・浅間総合病院初診前に他院で「手術しかありません。」と言われていました。)。
- このうち初診時すでに軟骨消失して骨同士がぶつかった130例でもPSTRエクササイズで有意な改善が得られました(P<0.001)。
- 軟骨消失は、経時的に有意に増強しました(P<0.009)が、Harris Hip Scoreなどの症状(痛みなど)の評価項目は有意に改善しました(P<0.001)。
【関連事項】
今回の結果は、「軟骨消失と痛み」について変形性股関節症でも下記の変形性膝関節症での報告と同様の関係にあることが示唆されました。
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Bacon K, Lavalley MP, Jafarzadeh SR, et al. Does cartilage loss cause pain in osteoarthritis and if so, how much? Ann Rheum Dis. 2019;79:1105-1110.
600例の変形性膝関節症患者のMRIによる前向き研究の結果、軟骨消失と痛みは滑膜炎により修飾されるわずかな痛みを除いてほとんど直接の関係はなく軟骨保護が変形性膝関節症の痛みを軽減することを証明するのは実現不可能と思われた。https://ard.bmj.com/content/79/8/1105(外部サイトへ移動)
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Hochberg MC, Guermazi A, Guehring H, et al. Effect of intra-articular sprifermin vs placebo on femorotibial joint cartilage thickness in patients with osteoarthritis: the FORWARD randomized clinical trial. JAMA. 2019;322:1360-1370.
軟骨再生医療である組換えヒト線維芽細胞成長因子18、スプリフェルミンの変形性膝関節症におけるRCT研究でスプリフェルミンは軟骨の厚さを増加させ、軟骨の損失を大幅に減らしましたが、痛みは改善されませんでした。軟骨保護を目的とした研究は、痛みに対する効果は期待できない可能性があることが提唱されました。
【関連報告】
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PRP(多血小板血漿)の関節内注射
Bennell KL, Paterson KL, Metcalf BR, et al. Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Pain and Medial Tibial Cartilage Volume in Patients With Knee Osteoarthritis: The RESTORE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Nov 23;326(20):2021-2030.
症候性の軽度から中等度の変形性膝関節症の患者では、生理食塩水プラセボの注射と比較して、PRP(多血小板血漿)の関節内注射は12ヶ月で症状または関節構造に有意差をもたらさなかった。これらの所見は、変形性膝関節症の管理のためのPRPの使用をサポートしていません。 -
ヒアルロン酸関節内注入
Tiago V Pereira, Peter Jüni, Pakeezah Saadat et al. Viscosupplementation for knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis. BMJ 2022; 378: e069722.
ヒアルロン酸注入がプラセボ(生理食塩水または無視できる濃度のヒアルロン酸を含む製剤)と比較して変形性膝関節症の痛みのわずかな減少に繋がることを示していますが、その差は臨床的に重要な最小値よりも小さかったです。調査結果は、変形性膝関節症の治療のためのヒアルロン酸の使用をサポートしていませんでした。
変形性股関節症
変形性膝関節症
OARSI(世界変形性関節症会議)の組織委員に選出されました
OARSI(世界変形性関節症会議)から2020年9月に組織委員への就任の依頼が届き2020年10月から3年間、委員会活動を行うことになりました。今後は、変形性股関節・膝関節症の診断学・治療の抜本的改正を目指して普及活動を行っていきます。
https://oarsi.org/strategic-alliance(外部サイトへ移動)OARSI(Osteoarthritis Research Society International:世界変形性関節症会議)
OARSIは、変形性股関節・膝関節症の保存療法(リハビリなど)・薬物療法の基礎と臨床・再生医療・疫学・病態学(遺伝子研究が多い)に関する世界最大規模の学会で世界のガイドラインを発信しています。
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2022年度 OARSI Award(学会賞)の中のinfographic(インフォーグラフィック)部門賞が2022年3月にWebsiteで公開されました。日本語翻訳の依頼が来ましたので翻訳して送りましたところ、そのままWebsiteに掲載されました。
注目点:「人工関節置換術後患者の36%に、改善が得られていません!」が注目すべき点と思われます。
https://oarsi.org/research/oarsi-infographics(外部サイトへ移動)
上記をクリックしPolicymakers InfographicのInfographic, Infographic(Japanese)をクリックしてください(他のInfographicも当科での翻訳です)。
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ファンクショナルオーソティクスの取り組み
米国で50年以上の治療実績のある足底板(カリフォルニア足病医学大学院Chris Smith元教授の理論を基に作成されています。)であるファンクショナルオーソティクスによる歩行不安定性の治療に2019年から取り組んできました。この足底板はいままでの足底板にない構造を持っています。PSTRエクササイズへの併用でさらなる治療成績の向上が得られています。
ピックアップ
タイトル | 英文原文 | 日本語訳 |
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PSTRエクササイズについての論説がPhysiotherapy Research and Reportsに掲載されました。 | 英文原文 | 日本語訳 |
1077例のPSTRエクササイズの後ろ向き研究がJournal of Physiotherapy & Physical Rehabilitationに掲載されました。 | 英文原文 論文 Supplementary Information |
日本語訳 |
国際ジャーナルActa Scientific Orthopaedics から Review Article(この分野の総説・総括)の投稿依頼があり Mini Review として掲載されました。 | 英文原文 | 日本語訳 |
国際ジャーナルJournal of Physiotherapy and Rehabilitationから投稿依頼がありNarrative based medicine(対話に基づく医療)の重要性が掲載されました。 | 英文原文 | 日本語訳 |
OARSI2015(世界変形性関節症会議)(2015.4.30〜5.3、於:米国、シアトル)で「PSTRエクササイズ」の臨床成績を発表しました。 | 英文抄録 | 日本語訳 |
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関節症センター長
林 和生
はやし かずお
出身大学 九州大学卒 資格 医学博士、日本整形外科学会専門医(指導医講習会受講済み)、日本リウマチ学会リウマチ専門医、日本リウマチ学会指導医 所属学会 日本整形外科学会、日本リウマチ学会、日本股関節学会、西日本整形・災害外科学会 コメント 膝・股関節外科においてはH19年に新しいリハビリであるPSTRエクササイズを開始して以来、“本当に必要な手術かどうかを適切に判断し、可能な場合は手術の回避・延期に務める”医療を行っています。
※PSTR エクササイズ:(Pericapsular Soft Tissue and Realignment:関節周囲軟部組織および再配列)エクササイズ。
★「PSTRエクササイズ」は、自宅で自分で行うホームエクササイズです。
林センター長が開発した骨と結合するセラミックであるハイドロキシアパタイトをコーティングした人工股関節置換術はすでに臨床応用されていますが、長期成績において従来のセメント非使用(セメントレス)人工股関節より優れた成績を納め現在世界的に普及しています(1994年人工股関節の新しいデザインで米国特許取得)。
関節リウマチについては、地域の先生との連携医療を基盤に生物学的製剤その他新しいリウマチ薬による治療も行っています。
新着情報
- 西日本新聞医療欄(2017年7月3日朝刊)にPSTRエクササイズの論説が掲載されました。
「重い股関節症 運動でも改善」「靭帯ほぐすと痛み軽減」「治療半年で8割に効果」 - H30年3月24日(土)に健康教室「手術と言われた膝・股関節痛を自分で治せるリハビリ」が開催されます。(PSTRエクササイズ普及活動をご覧ください。)「股関節痛の94%に効いた 奇跡の自力療法」(マキノ出版)・「脊柱管狭窄症を自分で治す!」(主婦の友社)の著者大谷内 輝夫先生の実技講習を行います。当日、会場から治療体験者を選ばせていただきます。
- 第43回日本股関節学会(2016.11.5.)で中等度〜重度の変形性股関節症患者へのPSTRエクササイズの成績を発表しました。成績内容
- H29.1.15.付けでマキノ出版より「股関節痛の94%に効いた 奇跡の自力療法」が出版されました。
著者:大谷内輝夫、分担執筆:林和生・春口幸太郎 - 日経新聞電子版(2015.9.13.)に『ひざ痛に効く「靭帯ゆるほぐし」股関節にも効く』が掲載されました。
- H26.10.8発売の週刊朝日ムック「首、腰、膝のいい病院 2015」にトップインタビューとして紹介されました。
- 【健康教室体験談報告】H25.10.5(土)に開催されました健康教室の報告です。体験談とリハビリの実技講習をご覧ください。
膝・股関節痛と腰痛の治療 - 「人工関節の広場」に「股関節痛を自分で治す本」が紹介されました。
変形性関節症最大の問題点
国際ジャーナル掲載論文のまとめ
- 当科初診前に手術と言われていた例を分析した結果、痛みは「関節面からの痛み」ではなく「関節外の軟部組織(靭帯・関節包・インナーマッスル)からの痛み」である例が多いという結果になりました。
- 「関節外の軟部組織からの痛み」は、PSTRエクササイズで改善させることができました。「新着情報」をご覧ください。
- 「関節面からの痛み」の場合には手術の対象になります。
- Decontracture test(拘縮除去テスト)で初診時に手術回避が可能(関節外の軟部組織からの痛み)か不可能か(関節面からの痛み)を診断することができるようになりました。解説
- 「PSTRエクササイズ」の適応(注1)
変形性股関節症
代表的疾患
変形性股関節症の治療
保存的治療(PSTRエクササイズによる手術の回避・延期)
当科初診前に手術と言われていた例の80%-85%が症状改善し手術回避・延期しています。
- 保存的治療(PDF )
- 術前・術後リハビリについて(PDF )
- PSTRエクササイズの成績内容(PDF )
第43回日本股関節学会で中等度〜重度の変形性股関節症患者へのPSTRエクササイズの成績を発表しました
手術治療
変形性膝関節症
代表的疾患
変形性膝関節症の治療
保存的治療(PSTRエクササイズによる手術の回避・延期)
関節リウマチ
PSTRエクササイズ普及活動
整形外科健康教室のお知らせ
研究業績
賞罰
- 平成5年度日本バイオマテリアル学会科学奨励賞受賞
- 1994年人工股関節の新しいデザインで米国特許取得(United States Patent,5314488)
役職
- 2017- Editorial Board, Journal of Clinical Investigations and Studies
- 2017- Editorial Board, Journal of Clinical Trials in Degenerative Diseases
研究論文
リンク集