僧帽弁閉鎖不全症
1.疾患の概要
僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が十分に閉じず、左心室から左心房へ血液が逆流する弁膜症です。僧帽弁は、左心室から大動脈へ血液を送り出す際に逆流を防ぐ役割を担っていますが、弁やその支持組織、または左心室・左心房の形態変化によって閉鎖が不十分になることがあります。
軽症では自覚症状がなく、健康診断などで心雑音を指摘されて見つかることがあります。進行すると心臓や肺に負担がかかり、息切れ、動悸、むくみなどの心不全症状が現れることがあります。治療は、逆流の重症度、症状、心機能、心房細動などの合併症、全身状態を総合的に評価して選択します。
2.原因と症状
僧帽弁閉鎖不全症は、原因により大きく「器質性(一次性)」と「機能性(二次性)」に分けられます。器質性は、僧帽弁そのものや腱索などの支持組織に異常があり、弁がうまく閉じなくなるタイプです。腱索の断裂や延長、リウマチ熱、先天的な弁の変化などが関係することがあります。機能性は、心筋梗塞、虚血性心疾患、拡張型心筋症などにより左心室や左心房が拡大し、僧帽弁が引っ張られて閉じにくくなるタイプです。両者が混在する場合もあります。
代表的な症状
- 心雑音の指摘
- 階段や坂道での呼吸困難
- 労作時の息切れ
- 安静時の息苦しさ
- 夜間発作性呼吸困難
- 横になると息苦しくなる起座呼吸
- 動悸
- 胸部不快感、胸痛
- めまい、立ちくらみ
- 全身倦怠感
- 咳
- ピンク色の泡状の痰
- 足首や下肢のむくみ
- 尿量低下
心房細動を合併すると、脈の乱れや動悸を自覚することがあります。進行した心不全症状や強い呼吸困難がある場合は、早めの医療機関受診が必要です。
3.検査
僧帽弁閉鎖不全症では、逆流の程度、原因、心機能、合併症の有無を確認するため、以下の検査を組み合わせて評価します。
聴診
心臓の収縮時に生じる心雑音を確認します。健診などで心雑音を指摘され、精密検査につながることがあります。
経胸壁心エコー図検査
胸の表面から超音波を当て、僧帽弁の形態、逆流の程度、左心房・左心室の大きさ、心機能を評価します。診断と重症度判定に重要な検査です。
経食道心エコー図検査
胃カメラのような管を口から挿入し、食道側から心臓を詳しく観察します。僧帽弁の形態や逆流部位を詳細に確認し、手術やカテーテル治療の適応判断に用いられます。左心房内の血栓確認にも役立ちます。
負荷心エコー図検査
運動などで心臓に負荷をかけながら、症状や逆流の変化、心機能を確認します。安静時には分かりにくい異常を評価する目的で行われることがあります。
心電図検査
心房細動などの不整脈の有無を確認します。
胸部X線検査
心拡大や肺うっ血の有無を確認します。心不全の評価に用いられることがあります。
血液検査
腎機能、肝機能など全身状態を確認します。BNPなどにより心不全の程度を評価することがあります。
心臓カテーテル検査・冠動脈評価
虚血性心疾患の有無や逆流の程度を確認する目的で行われることがあります。手術やカテーテル治療の前に必要に応じて検討されます。
CT検査
心臓や血管の形態評価、治療計画の補助として行われることがあります。
4.治療
治療は、急性か慢性か、逆流の重症度、症状、心機能、合併症、年齢や全身状態を踏まえて選択します。
経過観察
軽症で症状がない場合は、薬を使用せずに定期的な心エコー検査で経過をみることがあります。逆流の増加や心機能低下がないかを確認します。
薬物療法
心臓への負担を軽減する目的で、血管拡張薬、ACE阻害薬、利尿薬、強心薬などが用いられることがあります。薬物療法は心不全症状の改善や管理を目的としますが、僧帽弁そのものの形態異常を修復する治療ではありません。
心房細動への治療
心房細動を合併している場合、不整脈に対する治療や、血栓予防のための抗凝固薬が検討されます。脳梗塞などの塞栓症予防が重要です。
急性僧帽弁閉鎖不全症への対応
急性に発症した場合は、急性心不全として入院管理や集中的な薬物療法が必要になることがあります。原因や全身状態に応じて、適切な時期に手術などを検討します。
外科手術
重症例や心機能への影響がある場合には、外科的治療が検討されます。主な方法には、自己弁を修復する僧帽弁形成術と、人工弁に置き換える僧帽弁置換術があります。病変の形態や心機能、全身状態を踏まえて術式を選択します。
経皮的僧帽弁接合不全修復術
外科手術のリスクが高い、または外科手術が適しにくいと判断される患者さんでは、カテーテルを用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術が検討されることがあります。足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し、MitraClip®などの器具で僧帽弁の一部をつかんで引き合わせ、逆流を軽減することを目的とした治療です。適応は僧帽弁の形態、心機能、併存疾患などをもとに判断されます。
心不全に対するデバイス治療
心不全の状態によっては、薬物療法に加えて特殊なペースメーカー治療などが検討されることがあります。
5.合併症
僧帽弁閉鎖不全症では、病状の進行や治療に伴い、以下のような合併症に注意が必要です。
- 心不全
逆流が増えると左心房や左心室に負担がかかり、息切れ、むくみ、尿量低下、倦怠感などが現れることがあります。 - 肺うっ血・肺水腫
左心房圧が上がることで肺に水分がたまり、呼吸困難や咳、ピンク色の泡状の痰がみられることがあります。 - 心房細動
左心房の拡大により心房細動を合併することがあります。動悸、胸部不快感、めまい、脈の乱れなどを生じる場合があります。 - 血栓塞栓症・脳梗塞
心房細動により左心房内に血栓ができると、血流に乗って脳へ移動し、脳梗塞を起こす可能性があります。 - 低心拍出量症候群
大動脈へ送り出される血液量が低下し、脳や肝臓など重要臓器への血流が不足することがあります。 - 多臓器不全
重症心不全や低心拍出が進行すると、複数の臓器機能に影響が及ぶことがあります。 - 外科手術に伴う合併症
手術では、出血、感染、不整脈、人工弁に関連する問題などが生じる可能性があります。術式や全身状態によりリスクは異なります。 - カテーテル治療に伴う合併症
経皮的僧帽弁接合不全修復術では、クリップの脱落や塞栓、片弁尖把持、医原性心房中隔欠損症、僧帽弁狭窄症、血栓症、塞栓症、心タンポナーデ、穿刺部出血などが起こることがあります。治療前に適応とリスクを十分に確認することが重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
