認知症
1.疾患の概要
認知症とは、脳の病気や障害によって記憶力、判断力、理解力、実行機能などが低下し、日常生活や社会生活に支障が出ている状態を指します。単なる加齢によるもの忘れとは異なり、約束や出来事そのものを忘れる、生活上の判断が難しくなる、慣れた作業ができなくなるなどの変化がみられます。
認知症の原因となる病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。また、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏、薬剤の影響、うつ病、感染症など、治療により改善が期待できる認知機能低下が隠れていることもあります。
認知症は、早期に原因を評価し、治療や生活支援を開始することで、症状の進行や生活上の困難に備えやすくなります。もの忘れ外来や認知症専門外来では、認知機能検査、画像検査、血液検査などを組み合わせて、原因疾患や重症度を評価します。
実際の診断や治療方針は、症状、検査結果、年齢、持病、生活状況、ご家族からの情報などを踏まえて医師が判断します。
2.原因と症状
認知症の原因は一つではありません。
代表的な原因疾患
- アルツハイマー型認知症
脳にアミロイドβやタウと呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞の働きが低下すると考えられています。最近の出来事を忘れる、同じことを何度も聞くなどの記憶障害から始まることが多いタイプです。 - 血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳血管の障害によって起こります。症状が段階的に悪化する、歩行障害や麻痺、言語障害を伴うことがあります。 - レビー小体型認知症
幻視、認知機能の変動、パーキンソン症状、睡眠中に大きな寝言や体動が出る症状などがみられることがあります。 - 前頭側頭型認知症
前頭葉や側頭葉の障害により、性格や行動の変化、社会的な判断の低下、言葉の障害などが目立つことがあります。 - その他の原因
正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺疾患、ビタミンB12欠乏、薬剤、アルコール、うつ病、せん妄などが関係する場合があります。
代表的な症状
- 最近の出来事を忘れる
- 同じ質問や話を繰り返す
- 日付、時間、場所が分かりにくくなる
- 財布や鍵などを頻繁に探す
- 料理、服薬管理、金銭管理が難しくなる
- 慣れた道で迷う
- 言葉が出にくい、会話の内容を理解しにくい
- 判断力や段取り力が低下する
- 意欲低下、無関心
- 怒りっぽさ、不安、抑うつ
- 幻覚、妄想
- 徘徊、昼夜逆転、睡眠障害
- 服装や身だしなみへの関心低下
急に意識がぼんやりする、短期間で症状が大きく変動する、発熱や脱水を伴う、突然の麻痺やろれつの回りにくさがある場合は、せん妄、感染症、脳卒中など別の緊急疾患の可能性があります。速やかな医療機関での評価が必要です。
3.検査
認知症の検査では、認知機能低下の有無だけでなく、原因疾患、重症度、生活への影響、治療により改善可能な病気の有無を確認します。本人からの情報に加え、ご家族や身近な方からの生活状況の情報が診断に役立ちます。
主な検査には以下があります。
問診・生活状況の確認
もの忘れの始まり方、進行の速さ、困っている生活動作、服薬状況、飲酒歴、睡眠、気分の変化、家族歴などを確認します。
神経診察・身体診察
麻痺、歩行障害、ふるえ、筋肉のこわばり、感覚障害、眼球運動、反射などを確認し、脳血管障害やパーキンソン症状などの有無を評価します。
認知機能検査
HDS-R、MMSE、MoCAなどを用いて、記憶、見当識、注意、言語、計算、図形認識、実行機能などを評価します。必要に応じて、より詳しい神経心理検査を行います。
血液検査
甲状腺機能、ビタミンB12、葉酸、肝機能、腎機能、電解質、血糖、脂質、貧血、炎症反応などを確認します。薬剤選択や全身状態の評価にも用います。
頭部MRI・CT検査
脳の萎縮、脳梗塞、脳出血、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、正常圧水頭症などを確認します。認知症と似た症状を起こす疾患の鑑別に重要です。
脳血流SPECT、PET検査など
脳の血流や代謝の低下パターンを評価し、認知症のタイプを推定する目的で行われることがあります。
髄液検査・アミロイドPETなど
アルツハイマー病の病態を詳しく評価する目的で行われることがあります。特に、抗アミロイドβ抗体薬など一部の治療を検討する場合には、実施が検討されることがあります。
心電図、頸動脈超音波検査など
血管性認知症や脳卒中リスクの評価が必要な場合に行います。
嚥下機能評価・栄養評価・ADL評価
飲み込み、食事量、体重変化、服薬管理、歩行、排泄、入浴など、生活機能を確認します。
認知症の診断は、検査結果のみで決まるものではありません。症状の経過、生活上の変化、画像所見、認知機能検査を総合して判断します。
4.治療
認知症の治療は、原因疾患に応じた治療、症状を和らげる治療、生活機能を保つための支援を組み合わせて行います。現時点では、すべての認知症を完全に元の状態へ戻す治療が確立しているわけではありませんが、原因によっては改善が期待できるものもあります。
主な治療には以下があります。
原因疾患への治療
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏、薬剤性の認知機能低下、うつ病などでは、原因に応じた治療により症状が改善する場合があります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症などでは、コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンなどが用いられることがあります。これらは症状の進行を緩やかにする、または一部の症状を軽減する目的で使用されます。効果や副作用には個人差があります。
抗アミロイドβ抗体薬などの治療
早期アルツハイマー病の一部では、原因物質の一つとされるアミロイドβを標的とした治療が検討される場合があります。対象となる病期や検査条件があり、脳浮腫や微小出血などの副作用確認のため、専門的な評価と定期的な画像検査が必要です。すべての患者さんに適応される治療ではありません。
血管性認知症への対応
高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙などの管理を行い、脳卒中の再発予防を目指します。必要に応じて抗血小板薬や抗凝固薬などが検討されます。
行動・心理症状への対応
不安、抑うつ、幻覚、妄想、興奮、不眠、徘徊などがある場合は、まず痛み、便秘、感染、睡眠不足、環境変化、薬剤の影響などを確認します。環境調整やケアの工夫で改善が難しい場合、症状に応じて薬物療法を検討することがあります。
リハビリテーション・非薬物療法
運動療法、認知機能訓練、作業療法、回想法、音楽活動、日課づくりなどを組み合わせ、生活機能の維持を目指します。転倒予防や嚥下機能の維持も重要です。
生活環境の調整と社会的支援
服薬管理、火の管理、金銭管理、運転、外出、見守り体制について、本人の状態に合わせて調整します。介護保険サービス、訪問看護、デイサービス、地域包括支援センター、認知症疾患医療センターなどの利用が検討されます。
薬を自己判断で中止したり、複数の医療機関で処方された薬を整理しないまま服用したりすると、症状や副作用に影響することがあります。治療内容は主治医と相談しながら調整することが重要です。
5.合併症
認知症では、認知機能の低下に加え、身体面・生活面の合併症が起こることがあります。早期に把握し、予防策をとることが重要です。
主な合併症・関連する問題には以下があります。
- 転倒・骨折
注意力や判断力の低下、歩行障害、薬の影響により転倒しやすくなることがあります。 - 低栄養・脱水
食事を忘れる、調理が難しくなる、飲水量が減るなどにより、体重減少や脱水につながる場合があります。 - 嚥下障害・誤嚥性肺炎
進行に伴い飲み込みの機能が低下し、肺炎を起こすことがあります。 - せん妄
感染、脱水、便秘、薬剤、入院や環境変化をきっかけに、急な混乱や興奮、意識の変動が起こることがあります。 - 徘徊・事故
道に迷う、交通事故、火の不始末、転落などのリスクが高まることがあります。 - 服薬ミス・治療中断
薬の飲み忘れ、重複服用、通院中断により、持病の悪化や副作用につながることがあります。 - 行動・心理症状の悪化
幻覚、妄想、興奮、不眠、抑うつ、不安などが生活に影響することがあります。 - 褥瘡・感染症
活動量が低下し寝たきりに近い状態になると、床ずれ、尿路感染、肺炎などが起こりやすくなります。 - 介護負担の増加
夜間対応、見守り、服薬管理、身体介助などが増え、家族や介護者の負担が大きくなる場合があります。医療・介護サービスを組み合わせた支援が必要になることがあります。 - 治療薬に関連する副作用
認知症治療薬や睡眠薬、抗精神病薬などにより、吐き気、食欲低下、徐脈、眠気、ふらつき、転倒、便秘、過鎮静などが起こることがあります。
合併症のリスクは、認知症の種類、進行度、持病、生活環境、服薬内容によって異なります。定期的な診察と生活状況の確認が重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
