アキレス腱損傷・断裂
1.疾患の概要
アキレス腱損傷・断裂とは、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐアキレス腱が、部分的または完全に傷ついたり切れたりする状態です。アキレス腱は、歩く、走る、ジャンプする、つま先立ちをするなどの動作で重要な役割を持っています。
アキレス腱断裂は、スポーツ中のジャンプ、ダッシュ、急な方向転換、踏み込み動作などで起こることが多く、特に中高年のスポーツ活動中にみられます。受傷時に「後ろから蹴られたような感じ」「ブチッという音がした」と表現されることがあります。
受傷直後は、ふくらはぎからかかとの後ろにかけて痛みや腫れが出ます。完全断裂では、つま先立ちができない、歩く時にけり出しが弱い、階段昇降がしにくいなどの症状がみられます。ただし、断裂していても歩ける場合があり、足関節捻挫や肉離れと間違われることがあります。
治療方針は、損傷の程度、断裂部位、受傷からの期間、年齢、活動量、スポーツ復帰の希望、持病、合併損傷の有無などを踏まえて総合的に判断します。治療には保存療法と手術療法があり、どちらの場合も適切な固定とリハビリテーションが重要です。
実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、スポーツレベル、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。
2.原因と症状
アキレス腱損傷・断裂は、アキレス腱に急激な負荷がかかった時に起こります。特に、足首が急に反らされる動作や、つま先で強く地面を蹴る動作で発生しやすいとされています。
発症に関係する要因
- ダッシュ、ジャンプ、急な方向転換を伴うスポーツ
- テニス、バドミントン、バスケットボール、サッカー、バレーボールなどの競技
- 急な運動再開、準備運動不足
- ふくらはぎやアキレス腱の柔軟性低下
- 加齢による腱の変性
- 過去のアキレス腱炎、アキレス腱周囲炎
- 肥満、体重増加
- 筋力低下、疲労
- 足に合わない靴、硬い路面での運動
- 糖尿病、脂質異常症、関節リウマチ、腎疾患などの持病
- ステロイド薬の使用歴
- 一部の抗菌薬など、腱障害に注意が必要な薬剤の使用歴
- 過去のアキレス腱損傷の既往
代表的な症状
主な症状は、アキレス腱部の痛みと歩行時の違和感です。完全断裂では、受傷時に強い痛みを感じたあと、しばらくすると痛みが軽くなることもあります。
そのほか、以下の症状がみられる場合があります。
- 受傷時に「ブチッ」「バチッ」という音や感覚がある
- 後ろから蹴られたように感じる
- かかとの上からふくらはぎにかけて痛い
- アキレス腱の周囲が腫れる
- 皮下出血が出る
- アキレス腱の部分にへこみを触れる
- つま先立ちができない
- 歩く時に地面をけり出しにくい
- 階段昇降がしにくい
- 歩行時に足首に力が入りにくい
- スポーツを続けられない
- 慢性的な痛みや違和感が続く
部分損傷の場合は、完全に歩けなくなるとは限らず、運動時の痛み、押した時の痛み、腫れ、違和感として現れることがあります。慢性的なアキレス腱の炎症や腱症が背景にある場合は、運動開始時の痛み、朝のこわばり、運動後の痛みなどがみられることがあります。
外傷後に歩けない場合、つま先立ちができない場合、アキレス腱にへこみがある場合、強い腫れや皮下出血がある場合は、アキレス腱断裂の可能性があるため早めの受診が必要です。また、足先のしびれや冷感、強い痛み、開放創を伴う場合は、血管・神経損傷や骨折などが関係していることもあります。
3.検査
アキレス腱損傷・断裂の診断では、受傷時の状況、痛みの部位、腫れや皮下出血の有無、歩行状態、つま先立ちができるか、過去の腱障害や持病などを確認したうえで診察します。
主な検査には以下があります。
問診・診察
X線検査
超音波検査
MRI検査
CT検査
血液検査
4.治療
アキレス腱損傷・断裂の治療は、腱の連続性を回復させ、歩行機能や筋力を改善し、再断裂を予防しながら日常生活やスポーツへの復帰を目指して行います。治療には保存療法と手術療法があります。
主な治療には以下があります。
急性期治療
保存療法
断裂部の状態、活動量、持病、手術リスクなどを踏まえて、ギプスや装具による保存療法が検討されます。足首をつま先下がりの位置で固定し、その後、装具やヒールリフトを用いて徐々に足首の角度や荷重を調整していきます。
近年は、装具を用いて早期から段階的に荷重や運動を行う機能的リハビリテーションが行われることがあります。保存療法では手術による傷の合併症を避けられる一方で、再断裂や筋力低下、腱の伸びすぎなどに注意が必要です。
手術療法
完全断裂、活動性が高い方、スポーツ復帰を希望する方、断裂部のすき間が大きい場合、再断裂、陳旧性断裂などでは手術療法が検討されます。
代表的な手術はアキレス腱縫合術です。断裂した腱を縫合し、必要に応じて周囲組織や腱を補強します。手術方法には、皮膚を切開して直接縫合する方法や、小さな切開で行う方法などがあります。陳旧性断裂や腱の欠損が大きい場合には、腱移行術や腱移植、補強術が検討されることがあります。
手術により腱の連続性を直接修復できますが、感染、創部トラブル、神経障害、癒着、血栓症などのリスクがあります。
薬物療法
痛みに応じて、外用薬や内服薬などが使用されることがあります。非ステロイド性抗炎症薬などは痛みや炎症を抑える目的で使われますが、胃腸障害、腎機能障害、持病、併用薬などに注意して選択します。アキレス腱周囲へのステロイド注射は腱断裂のリスクに注意が必要なため、適応は慎重に判断されます。
リハビリテーション
保存療法でも手術療法でも、リハビリテーションは非常に重要です。初期は腱の修復を妨げないように保護しながら、腫れや痛みを抑えます。その後、医師や理学療法士の指導のもとで、足関節の可動域訓練、ふくらはぎの筋力訓練、歩行訓練、バランストレーニングを段階的に進めます。
スポーツ復帰には、腱の治癒、筋力回復、ジャンプやダッシュ動作の安定性、再断裂リスクなどを確認しながら慎重に判断します。復帰時期は損傷の程度や治療方法、競技レベルによって異なります。
再発予防、生活指導
急な運動量の増加を避け、運動前後のウォーミングアップやクールダウンを行います。ふくらはぎや足関節の柔軟性、筋力、バランス能力を整えることが重要です。靴の見直し、路面環境への注意、体重管理、疲労をためないことも再発予防につながります。
5.合併症
アキレス腱損傷・断裂では、損傷そのものによる問題だけでなく、固定期間や手術、リハビリテーションの経過に関連した問題が起こることがあります。
主な合併症・関連する問題には以下があります。
- 再断裂
治療後にアキレス腱が再び切れることがあります。特に、治癒が不十分な時期に無理な運動や急な負荷をかけるとリスクが高くなります。復帰時期は自己判断せず、医師や理学療法士の評価に基づいて決めることが重要です。 - 筋力低下、ふくらはぎの萎縮
固定や活動量低下により、ふくらはぎの筋力が低下することがあります。治療後もしばらくは、つま先立ち、階段昇降、走る動作で力の入りにくさが残る場合があります。 - 足関節の可動域制限、こわばり
固定期間や痛みの影響で足首が硬くなることがあります。可動域の回復には段階的なリハビリテーションが必要です。 - 歩行能力の低下、跛行
腱の痛み、筋力低下、足首の硬さにより、歩き方が不自然になることがあります。長距離歩行や坂道、階段で症状が出やすい場合があります。 - 腱の伸びすぎ、けり出し力の低下
治癒過程で腱が伸びすぎると、歩行や走行時のけり出しが弱くなることがあります。装具管理やリハビリテーションを適切に行うことが重要です。 - 慢性的な痛み、違和感
治療後もアキレス腱周囲の痛み、突っ張り感、違和感が残ることがあります。瘢痕や癒着、腱の変性、筋力不足などが関係する場合があります。 - 陳旧性断裂
受傷に気づかず治療開始が遅れると、断裂部が離れたままになり、慢性的な歩行障害や筋力低下につながることがあります。時間が経過した断裂では、治療が複雑になる場合があります。 - 深部静脈血栓症、肺塞栓症
下肢の固定や手術後、活動量低下により血栓ができることがあります。ふくらはぎの強い腫れや痛み、息苦しさ、胸痛などがある場合は早急な対応が必要です。 - 創部トラブル、感染
手術を行った場合、傷の治りが悪い、感染、皮膚のトラブルが起こることがあります。糖尿病、喫煙、血流障害などがある場合は注意が必要です。 - 神経障害、しびれ
手術や外傷に関連して、足首や足の外側にしびれや感覚の違和感が出ることがあります。
また、手術療法を行う場合には、感染、出血、深部静脈血栓症、肺塞栓症、創部治癒不良、神経障害、癒着、再断裂、痛みの残存、再手術の可能性などがあります。リスクは患者さんの状態や損傷の程度によって異なるため、治療前に十分な説明を受けることが重要です。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
