社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院
Fukuoka Wajiro Hospital

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股・膝・足

前十字靱帯(ACL)損傷・断裂

1.疾患の概要

前十字靱帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)とは、膝関節の中にある重要な靱帯の一つで、大腿骨と脛骨をつなぎ、すねの骨が前方へずれすぎることや、膝がねじれる動きを抑える役割を持っています。

ACL損傷・断裂とは、スポーツや転倒などで膝に強いひねりや衝撃が加わり、前十字靱帯が部分的または完全に切れてしまう状態です。バスケットボール、サッカー、バレーボール、ハンドボール、ラグビー、スキーなど、ジャンプ、着地、急な方向転換、ストップ動作を伴うスポーツで多くみられます。
 

受傷直後には、膝の痛み、腫れ、膝に血がたまる関節血腫、歩きにくさなどが出ることがあります。時間が経つと痛みや腫れが軽くなる場合もありますが、靱帯が十分に機能しないままだと、膝が抜ける、膝くずれを起こす、方向転換が怖いなどの不安定感が残ることがあります。

ACL損傷は、半月板損傷、内側側副靱帯損傷、軟骨損傷、骨挫傷などを合併することもあります。また、膝くずれを繰り返すと半月板や軟骨に追加の損傷が起こり、将来的に変形性膝関節症につながる可能性があります。


治療方針は、断裂の程度、膝の不安定性、年齢、活動量、スポーツや仕事の内容、合併損傷の有無、患者さんの希望などを踏まえて総合的に判断します。

実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、年齢、活動量、スポーツレベル、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。

2.原因と症状

ACL損傷・断裂は、膝に強いひねり、過伸展、急な減速、方向転換、着地時の衝撃などが加わることで起こります。相手との接触によって起こる場合もありますが、接触がない状態で、着地や切り返し動作の際に発生することも少なくありません。

発症や進行に関係する要因

  • ジャンプ着地や急な方向転換を伴うスポーツ
  • 膝が内側に入る着地や切り返し動作
  • 片足着地やバランスを崩した状態での着地
  • スキー中の転倒や膝のねじれ
  • 交通事故、転倒などの外傷
  • 太ももや股関節周囲の筋力低下
  • 体幹バランスや柔軟性の低下
  • 疲労によるフォームの乱れ
  • 過去の膝のけが
  • 関節のゆるさ
  • 靴、グラウンド、床面などの環境要因
  • 女性に多い傾向があるスポーツ動作上の特徴や筋力バランス

代表的な症状

主な症状は、受傷時の膝の痛みと腫れです。受傷時に「ブチッ」「ポキッ」「プツッ」といった音や感覚を自覚することがあります。受傷直後に競技を続けられなくなる場合もあります。

そのほか、以下の症状がみられる場合があります。

  • 受傷直後の強い膝の痛み
  • 数時間以内に膝が大きく腫れる
  • 膝に血がたまる
  • 膝を曲げ伸ばししにくい
  • 体重をかけにくい、歩きにくい
  • 膝が抜ける感じがする
  • 膝くずれを起こす
  • 方向転換やジャンプ着地が怖い
  • 階段昇降や坂道で不安定に感じる
  • スポーツ復帰後に膝が不安定になる
  • 膝の引っかかり感、ロッキング
  • 繰り返す腫れや痛み

半月板損傷を合併している場合は、膝の引っかかり、クリック音、膝が伸びきらない、曲げ伸ばしの途中でロックするなどの症状が出ることがあります。

 

受傷後に強い腫れがある場合、歩けない場合、膝の変形がある場合、しびれや足先の冷感がある場合、発熱を伴う場合、外傷後に痛みが強く改善しない場合は、骨折、脱臼、血管・神経損傷、感染など別の問題が関係していることもあるため、早めの受診が必要です。

3.検査

ACL損傷・断裂の診断では、受傷時の状況、痛みや腫れの経過、膝くずれの有無、スポーツや仕事への影響、過去の膝のけがなどを確認したうえで、膝関節の状態を診察します。

主な検査には以下があります。

問診・診察

受傷時の動作、膝の腫れ、可動域、圧痛の部位、歩行状態、膝の不安定性などを確認します。ラックマンテスト、前方引き出しテスト、ピボットシフトテストなどにより、前十字靱帯の機能を評価します。急性期は痛みや腫れで正確な評価が難しいことがあり、腫れや痛みが落ち着いてから再評価する場合もあります。

X線検査

骨折や脱臼、骨片の剥離、関節の配列などを確認します。ACL損傷そのものはX線には写りませんが、脛骨顆間隆起骨折、Segond骨折など、ACL損傷に関連する骨の異常が見つかることがあります。

MRI検査

ACL損傷の評価で重要な検査です。前十字靱帯の連続性、断裂の程度、半月板損傷、軟骨損傷、骨挫傷、側副靱帯損傷、後十字靱帯損傷などを詳しく確認できます。治療方針を決めるうえでも有用です。

CT検査

骨折や骨片の位置、関節面の状態を詳しく確認する目的で行われることがあります。骨折を伴う場合や手術前の評価で用いられることがあります。

関節液検査、関節穿刺

膝の腫れが強い場合、関節内にたまった血液や関節液を確認することがあります。痛みや腫れを軽減する目的で関節液を抜く場合もあります。感染などが疑われる場合には、関節液の検査を行うことがあります。

血液検査

通常、ACL損傷そのものの診断目的で血液検査を行うことは多くありません。ただし、感染症や炎症性疾患など、ほかの疾患との鑑別が必要な場合に行われることがあります。

関節鏡検査

現在はMRIなどで診断できることが多いため、診断だけを目的に行うことは多くありません。手術時に関節内を直接確認し、ACL損傷、半月板損傷、軟骨損傷などの状態を評価することがあります。
検査結果だけで治療方針が決まるわけではありません。膝の不安定性、スポーツや仕事で必要な動作、日常生活への影響、合併損傷の有無、患者さんの希望などを含めて総合的に判断します。

4.治療

ACL損傷・断裂の治療は、痛みや腫れの軽減、膝関節の動きの回復、筋力の維持・改善、膝くずれの予防、スポーツや日常生活への復帰を目的に行います。治療には保存療法と手術療法があります。

主な治療には以下があります。

急性期治療

受傷直後は、膝の腫れや痛みを抑えることが重要です。安静、冷却、圧迫、挙上、松葉杖の使用、装具による保護、痛み止めの使用などを行います。強い痛みや腫れがある時期に無理に動かすと症状が悪化することがあるため、医師の指示に従って段階的に荷重や運動を進めます。

保存療法

部分損傷の場合、膝の不安定性が少ない場合、日常生活で大きな支障がない場合、激しいスポーツ復帰を希望しない場合などでは、保存療法が検討されます。装具を使用しながら、膝の可動域訓練、太ももの筋力訓練、股関節・体幹の筋力強化、バランストレーニング、歩行訓練などを行います。

ただし、完全断裂ではACLが元通りに自然治癒しにくいことがあり、膝くずれを繰り返す場合は半月板や軟骨を傷めるリスクがあります。そのため、保存療法中も膝の不安定性や活動時の症状を確認しながら治療方針を見直します。

運動療法・リハビリテーション

ACL損傷の治療では、保存療法でも手術療法でもリハビリテーションが重要です。膝の腫れを抑え、膝の曲げ伸ばしを回復し、大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節周囲筋、体幹の筋力を整えます。

また、ジャンプ着地、方向転換、片足動作、バランス能力などを段階的に改善し、再受傷を防ぐための動作指導を行います。スポーツ復帰は、痛みや腫れがないこと、十分な筋力や可動域があること、動作テストで安定性が確認できることなどを踏まえて判断します。

手術療法

膝くずれを繰り返す場合、完全断裂でスポーツ復帰を希望する場合、方向転換やジャンプを伴う競技を行う場合、仕事で膝の安定性が必要な場合、半月板損傷などを合併している場合には、手術療法が検討されます。

代表的な手術は、前十字靱帯再建術です。切れた靱帯を縫い合わせるだけでは十分な安定性が得られにくいことが多いため、一般的には患者さん自身の腱を用いて新しい靱帯を作る再建術が行われます。使用する腱には、ハムストリング腱、膝蓋腱、大腿四頭筋腱などがあります。

手術は関節鏡を用いて行われることが多く、骨にトンネルを作り、移植腱を適切な位置に固定します。半月板損傷や軟骨損傷を合併している場合には、同時に処置を行うことがあります。

手術前後のリハビリテーション

手術前には、腫れを抑え、膝の曲げ伸ばしをできるだけ回復させ、筋力を保つことが大切です。手術後は、移植した靱帯がなじむまでの期間を考慮しながら、可動域訓練、荷重訓練、筋力訓練、バランストレーニング、スポーツ動作練習を段階的に進めます。

スポーツ復帰の時期は、手術方法、合併損傷、競技種目、筋力回復、動作の安定性などによって異なります。時期だけでなく、機能評価を確認しながら慎重に判断します。

再受傷予防

スポーツ復帰後は、再断裂や反対側のACL損傷を防ぐため、着地動作、方向転換動作、股関節・体幹の使い方、筋力バランス、疲労管理などを意識したトレーニングが重要です。特に、膝が内側に入る動作を修正することが大切です。
治療にはそれぞれ利点と注意点があります。手術を行った場合も、感染、血栓症、関節のこわばり、可動域制限、移植腱の再断裂、膝前面の痛み、しびれ、違和感、痛みの残存などのリスクがあり、術後のリハビリテーションと定期的な経過観察が重要です。

5.合併症

ACL損傷・断裂では、受傷時の合併損傷や、膝の不安定性が続くことによる二次的な問題が起こることがあります。

主な合併症・関連する問題には以下があります。

  • 半月板損傷
    ACL損傷に合併しやすい損傷です。膝くずれを繰り返すことで、後から半月板損傷が進行することもあります。半月板は膝のクッションとして重要な役割を持つため、損傷が進むと痛みや引っかかり、将来的な関節変性につながることがあります。
  • 軟骨損傷
    受傷時の衝撃や繰り返す膝くずれにより、関節軟骨が傷つくことがあります。軟骨損傷は痛み、腫れ、可動域制限の原因となり、変形性膝関節症のリスクに関係します。
  • 膝の不安定性
    ACLが十分に機能しないと、方向転換、ジャンプ着地、階段、坂道などで膝が抜けるように感じることがあります。膝くずれを繰り返すと、スポーツや仕事、日常生活に支障が出る場合があります。
  • 筋力低下、可動域制限
    痛みや腫れを避けて膝を動かさない状態が続くと、太ももの筋力が低下し、膝の曲げ伸ばしがしにくくなることがあります。手術前後を含めて、適切なリハビリテーションが重要です。
  • 変形性膝関節症
    ACL損傷後は、半月板損傷や軟骨損傷、膝の不安定性などの影響により、将来的に変形性膝関節症を発症するリスクがあります。手術を行っても完全に予防できるわけではないため、筋力維持、体重管理、再受傷予防が大切です。
  • スポーツ復帰の遅れ、不安感
    膝の痛みや不安定感、再受傷への恐怖により、スポーツ復帰に時間がかかる場合があります。身体機能だけでなく、動作への自信を回復することも重要です。
  • 反対側のACL損傷、再断裂
    スポーツ復帰後に、再建したACLが再断裂する場合や、反対側のACLを損傷する場合があります。復帰前の機能評価と再発予防トレーニングが重要です。

また、手術療法を行う場合には、感染、深部静脈血栓症、肺塞栓症、出血、関節拘縮、可動域制限、移植腱のゆるみや再断裂、固定材料の違和感、膝前面の痛み、採取した腱の部位の痛み、皮膚のしびれ、再手術の可能性などがあります。リスクは患者さんの状態や合併損傷の有無によって異なるため、治療前に十分な説明を受けることが重要です。

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※注釈
この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。