卵巣がん
1.疾患の概要
卵巣がんは、卵巣に発生する悪性腫瘍の総称です。卵巣は、女性ホルモンの分泌や卵子の成熟・排卵に関わる臓器です。卵巣腫瘍は、発生する組織により上皮性腫瘍、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍などに分類され、良性、境界悪性、悪性に分けられます。
卵巣がんは早期には自覚症状が乏しいことが多く、診断時に進行している場合があります。進行すると、腹膜にがん細胞が広がる腹膜播種、腹水、周囲臓器の圧迫症状などがみられることがあります。
治療方針は、がんの組織型、進行度、腹膜播種や転移の有無、年齢、妊娠希望の有無、全身状態などを総合的に評価して検討されます。病理診断により組織型を確認することは、治療内容を決めるうえで重要です。
2.原因と症状
卵巣がんの明確な発生メカニズムは、十分に解明されていない部分があります。一方で、排卵回数の多さや遺伝的要因が発症に関係すると考えられています。
代表的なリスク因子
- 妊娠・出産経験がない、または少ない
- 初潮が早い
- 閉経が遅い
- 高齢での出産
- 卵巣がん、乳がんの家族歴
- BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子の変異
- 遺伝性乳がん卵巣がん症候群が疑われる家族歴
代表的な症状
- 初期には自覚症状がないことが多い
- 下腹部の張り、腹部膨満感
- 下腹部のしこり
- 下腹部痛、骨盤部痛
- 腰痛
- 頻尿、排尿しにくい
- 便秘
- 食欲低下
- すぐに満腹になる
- 吐き気、嘔吐
- 腹水による腹部の膨らみ
- 胸水による息苦しさ
- 体重減少
- 貧血
- 不正出血
- ホルモンを分泌するタイプでは、乳房の変化や体毛の変化がみられることがある
これらの症状は卵巣がん以外の病気でもみられます。症状が続く場合や、下腹部の張り、腹部膨満感、頻尿、便秘などが新たに出現した場合には、婦人科での評価が必要です。
3.検査
卵巣がんが疑われる場合は、腫瘍の有無や大きさ、広がり、全身状態を確認するために以下の検査が行われます。
問診
症状、月経状況、妊娠・出産歴、既往歴、家族歴、乳がん・卵巣がんの家族歴などを確認します。
内診
子宮や卵巣の大きさ、可動性、痛みの有無、骨盤内のしこりなどを確認します。
超音波検査
腟内または腹部から超音波を当て、卵巣の大きさ、腫瘍の性状、腹水の有無などを確認します。卵巣腫瘍が疑われる場合に行われる基本的な検査です。
血液検査・腫瘍マーカー
貧血や炎症の有無、肝機能・腎機能などの全身状態を確認します。卵巣がんではCA125などの腫瘍マーカーを調べることがあります。ただし、腫瘍マーカーのみで診断を確定することはできません。
CT検査
腫瘍の広がり、腹膜播種、リンパ節転移、肝臓や肺などへの転移の有無を確認するために行われます。
MRI検査
卵巣腫瘍の性状、周囲臓器との関係、良性・悪性の可能性を評価する目的で行われます。
病理検査
手術で切除した組織、または腹水・胸水などを顕微鏡で調べ、がん細胞の有無や組織型を確認します。卵巣腫瘍では、病理診断により良性・境界悪性・悪性を判定し、その後の治療方針を検討します。
遺伝学的検査
卵巣がんの一部ではBRCA1、BRCA2などの遺伝子変異が関係します。家族歴や治療薬の選択に応じて、遺伝学的検査が検討されることがあります。
4.治療
卵巣がんの治療は、手術療法と薬物療法を組み合わせて行われることが一般的です。治療内容は、がんの進行度、組織型、転移の有無、全身状態、妊娠希望の有無などを踏まえて決定されます。
手術療法
卵巣がんでは、がんの広がりを確認し、可能な範囲で腫瘍を切除する手術が検討されます。病状に応じて、片側または両側の卵巣・卵管、子宮、大網、リンパ節などを切除することがあります。
腫瘍減量術
進行している場合には、腹腔内のがんをできるだけ切除する目的で腫瘍減量術が行われることがあります。がんの広がりによっては、大腸、小腸、脾臓などの合併切除や人工肛門造設が検討される場合があります。
薬物療法
手術後の再発リスクを下げる目的や、がんが卵巣の外に広がっている場合に、抗がん薬による治療が行われることがあります。治療内容は、組織型や全身状態、副作用の出方などを確認しながら検討されます。
術前化学療法
診断時にがんが広く進行している場合や、最初から大きな手術を行うことが難しい場合には、先に薬物療法を行い、腫瘍の状態を再評価したうえで手術を検討することがあります。
分子標的治療薬
病状や検査結果に応じて、ベバシズマブやPARP阻害薬などの分子標的治療薬が検討されることがあります。適応は、がんの種類、治療経過、遺伝子検査の結果などにより異なります。
妊孕性温存治療
ごく早期の卵巣がんで、将来的な妊娠を希望する場合には、子宮と反対側の卵巣・卵管を温存する治療が検討されることがあります。ただし、対象となる条件は限られ、再発リスクも含めて慎重な判断が必要です。
支持療法・緩和ケア
腹部膨満感、痛み、吐き気、食欲低下、呼吸苦などの症状を和らげる治療が行われることがあります。病状にかかわらず、治療と並行して生活の質を保つ目的で検討されます。
5.合併症
卵巣がんでは、病気の進行や治療に伴い、以下のような合併症・影響が生じることがあります。
- 腹膜播種
がん細胞が腹膜に広がり、お腹の中の臓器や横隔膜周囲に病変が及ぶことがあります。 - 腹水・胸水
腹膜播種などにより腹水がたまり、腹部膨満感や食欲低下がみられることがあります。胸水がたまると息苦しさを生じる場合があります。 - 消化管・膀胱への圧迫症状
腫瘍が大きくなることで、大腸や膀胱が圧迫され、便秘、頻尿、排尿困難、吐き気、嘔吐などが起こることがあります。 - 卵巣腫瘍茎捻転・腫瘍破裂
卵巣腫瘍が大きくなると、卵巣の根元がねじれる茎捻転や、腫瘍破裂が起こることがあります。強い腹痛や出血を伴い、緊急対応が必要となる場合があります。 - リンパ節転移・遠隔転移
リンパ節や腹腔内、肝臓、肺などに転移することがあります。転移の有無は治療方針に関わります。 - 栄養状態の低下・体重減少
食欲低下、腹水、消化管への圧迫などにより、体重減少や栄養状態の低下がみられることがあります。 - 手術に伴う合併症
出血、感染、腸閉塞、排尿・排便機能への影響などが起こることがあります。腸管切除を行った場合には、人工肛門が必要となる場合があります。 - リンパ浮腫
リンパ節郭清を行った場合、下肢のむくみが生じることがあります。 - 妊娠・卵巣機能への影響
両側の卵巣・卵管や子宮を摘出する場合、その後の妊娠はできなくなります。卵巣を摘出した場合には、女性ホルモンの低下に伴う症状が現れることがあります。 - 薬物療法に伴う副作用
吐き気、食欲低下、倦怠感、脱毛、しびれ、白血球・赤血球・血小板の減少などがみられることがあります。副作用の内容や程度は、使用する薬剤や患者さんの状態によって異なります。
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この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。
