社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院
Fukuoka Wajiro Hospital

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全身

末梢神経損傷

1.疾患の概要

末梢神経損傷とは、脳や脊髄から手足や体の各部位へ伸びている末梢神経が、外傷、圧迫、牽引、切断、炎症、血流障害などにより傷つく状態です。末梢神経は、手足を動かす運動神経、痛みや触った感覚を伝える感覚神経、汗や血流などに関係する自律神経の働きを持っています。

末梢神経が損傷されると、損傷された神経が支配する部位に、しびれ、感覚の鈍さ、痛み、筋力低下、麻痺、手足の動かしにくさなどが生じます。損傷の程度によって、一時的な神経の伝導障害で回復が期待できるものから、神経の軸索が傷つくもの、神経が完全に断裂して自然回復が難しいものまであります。

原因としては、切り傷や刺し傷、骨折や脱臼、交通事故、スポーツ外傷、圧迫、手術や注射に関連した損傷、長時間同じ姿勢による圧迫などがあります。代表的なものには、橈骨神経麻痺、尺骨神経損傷、正中神経損傷、腓骨神経麻痺、坐骨神経損傷、腕神経叢損傷などがあります。
末梢神経は回復に時間がかかることがあり、損傷部位から先へ神経が再生する場合も、月単位で経過をみる必要があります。損傷の部位や程度、受傷から治療開始までの時間、年齢、持病、リハビリテーションの状況などにより回復の程度は異なります。

治療方針は、神経が圧迫されているのか、伸ばされているのか、切れているのか、骨折や血管・腱損傷を伴うか、筋力低下や感覚障害の程度、日常生活や仕事への影響などを踏まえて総合的に判断します。

実際の診断や治療内容は、症状、検査結果、受傷状況、年齢、活動量、仕事や生活環境、持病などを踏まえて医師が個別に判断します。

2.原因と症状

末梢神経損傷は、神経に直接傷がつく場合だけでなく、周囲の骨折、脱臼、腫れ、出血、瘢痕、腫瘤などにより神経が圧迫されて起こることもあります。また、強く引き伸ばされる牽引損傷や、長時間の圧迫による麻痺もあります。

発症や進行に関係する要因

  • 切り傷、刺し傷、裂創などの開放性外傷
  • 交通事故、転落、スポーツ外傷
  • 骨折、脱臼、靱帯損傷に伴う神経損傷
  • 強い打撲や圧挫損傷
  • 長時間の圧迫、不良姿勢による神経麻痺
  • ギプス、装具、包帯などによる圧迫
  • 手術、注射、点滴、採血などに関連した神経障害
  • 腫瘍、ガングリオン、血腫、瘢痕組織による圧迫
  • 糖尿病、腎疾患、甲状腺疾患などによる神経障害
  • 関節リウマチなどの炎症性疾患
  • 感染症や血管炎
  • 薬剤、アルコール、栄養障害などによる末梢神経障害
  • 長時間の同一姿勢、寝たきり、泥酔後の圧迫
  • 職業やスポーツによる反復負荷

代表的な症状

主な症状は、損傷された神経の支配領域に出るしびれ、感覚障害、筋力低下です。症状は神経の種類や損傷部位によって異なります。

  • 手足のしびれ
  • 感覚が鈍い、触っても分かりにくい
  • 痛み、電気が走るような痛み
  • 焼けるような痛み、ピリピリした痛み
  • 手や足に力が入りにくい
  • 指や手首、足首が動かしにくい
  • 物を落としやすい
  • 細かい作業がしにくい
  • 握力が低下する
  • 足先が上がらずつまずきやすい
  • 歩きにくい、足を引きずる
  • 筋肉がやせる
  • 手足のこわばり、関節が硬くなる
  • 皮膚の色や温度の変化
  • 汗をかきにくい、または汗が増える
  • 傷ややけどに気づきにくい
  • 痛みに過敏になる
  • 症状が時間とともに悪化する

神経が完全に断裂している場合は、受傷直後から強い感覚障害や運動麻痺が出ることがあります。一方、神経が圧迫や牽引で一時的に障害されている場合は、時間の経過とともに徐々に回復することもあります。

外傷後に手足が動かない場合、しびれが強い場合、感覚がない場合、手足が冷たい・色が悪い場合、強い腫れや痛みが増している場合、出血を伴う深い傷がある場合は、神経損傷だけでなく血管損傷、骨折、脱臼、コンパートメント症候群などが関係していることもあるため、早めの受診が必要です。

3.検査

末梢神経損傷の診断では、受傷時の状況、症状の出ている部位、しびれや痛みの範囲、手足の動かしにくさ、過去のけがや持病などを確認したうえで、神経の働きを診察します。

問診・診察

しびれの範囲、感覚の低下、筋力、反射、筋肉のやせ、皮膚の状態、関節の動きなどを確認します。どの神経がどの部位で障害されているかを推定します。神経の走行に沿ってたたいた時にしびれが響くチネル徴候を確認することもあります。

X線検査

骨折、脱臼、骨片、骨の変形、異物などを確認します。神経そのものはX線には写りませんが、神経損傷の原因となる骨の異常を調べるために重要です。

CT検査

骨折の形、骨片の位置、関節の状態、異物の有無などを詳しく確認する目的で行われます。外傷後や手術前の評価に用いられることがあります。

MRI検査

神経の周囲にある筋肉、腱、靱帯、血腫、腫瘤、瘢痕、炎症などを詳しく確認できます。腕神経叢損傷、坐骨神経損傷、腫瘍による圧迫、脊椎疾患との鑑別などで有用です。

超音波検査

神経の腫れ、連続性、圧迫部位、神経腫、周囲の血腫や腫瘤などを確認できます。比較的簡便に行うことができ、神経を動かしながら評価できる場合もあります。

神経伝導検査、筋電図検査

神経の伝わり方や筋肉への影響を調べる検査です。神経障害の部位や程度、回復の見込みを評価するうえで重要です。受傷直後には異常がはっきりしないことがあり、一定期間をおいて再検査することもあります。

血液検査

糖尿病、甲状腺疾患、腎疾患、ビタミン不足、炎症性疾患、感染症、自己免疫疾患など、神経障害に関係する全身疾患が疑われる場合に行われます。

血管検査

外傷後に手足の冷感、色調不良、脈が弱いなどの症状がある場合には、血管損傷を確認するため、超音波検査、CT血管造影、血管造影などが検討されます。

創部の評価

切り傷や開放創がある場合には、神経だけでなく、腱、血管、筋肉、骨、関節の損傷を確認します。傷の深さや汚染の程度も治療方針に関係します。

末梢神経損傷と似た症状を起こす病気には、脳血管障害、脊髄疾患、頚椎症、腰椎椎間板ヘルニア、糖尿病性神経障害、手根管症候群、肘部管症候群、血管障害などがあります。検査結果だけでなく、症状の分布や診察所見を含めて総合的に判断します。

4.治療

末梢神経損傷の治療は、神経への圧迫や損傷を取り除き、感覚や運動機能の回復を促し、痛みを軽減し、関節拘縮や筋力低下を防ぎ、日常生活や仕事への復帰を目指して行います。
主な治療には以下があります。

急性期治療

外傷直後は、出血、骨折、脱臼、血管損傷、腱損傷、感染リスクなどを確認し、必要な処置を行います。傷がある場合は洗浄、縫合、感染予防、破傷風予防などが検討されます。骨折や脱臼がある場合は整復や固定を行い、神経や血管への圧迫を減らします。

保存療法

神経が完全に切れておらず、一時的な圧迫や牽引による損傷が疑われる場合、まずは経過観察や保存療法を行うことがあります。安静、装具、原因となる圧迫の除去、痛みの管理、リハビリテーションを行いながら、神経回復の兆候を確認します。

装具療法

麻痺により手首、指、足首などが動かしにくい場合、装具を使用して関節の位置を保ち、変形や拘縮を防ぎます。足首が上がらない下垂足では短下肢装具、手首や指の麻痺ではスプリントなどが検討されます。装具により歩行や日常動作を補助できる場合があります。

薬物療法

痛みに応じて、外用薬や内服薬が使用されることがあります。神経障害性疼痛が強い場合には、神経痛に対する薬剤が検討されます。非ステロイド性抗炎症薬などを使用する場合は、胃腸障害、腎機能障害、持病、併用薬などに注意が必要です。

リハビリテーション、作業療法

末梢神経損傷では、リハビリテーションが非常に重要です。関節が硬くならないように可動域訓練を行い、残っている筋力を維持し、神経回復に合わせて筋力訓練や動作練習を進めます。
感覚が低下している場合には、やけどやけがを防ぐ生活指導、感覚再教育、細かい動作の練習などを行います。手の神経損傷では、作業療法により日常生活動作や仕事動作の再獲得を目指します。

原因疾患への対応

糖尿病、甲状腺疾患、関節リウマチ、腫瘤、ガングリオン、血腫、炎症、圧迫姿勢などが原因の場合は、それぞれに応じた治療を行います。神経を圧迫している原因が明らかな場合には、除圧を検討します。

手術療法

神経が切断されている場合、鋭利な外傷で神経断裂が疑われる場合、骨片や瘢痕、腫瘤などによる強い圧迫がある場合、保存療法で回復が乏しい場合には、手術療法が検討されます。
代表的な手術には、神経縫合術、神経剥離術、神経移植術、神経移行術、神経除圧術、腫瘤摘出術などがあります。神経の欠損が大きい場合には、別の神経を移植してつなぐことがあります。

腱移行術、機能再建術

神経の回復が難しい場合や、長期間経過して筋肉の回復が期待しにくい場合には、残っている筋肉や腱を利用して機能を補う腱移行術などが検討されることがあります。手や足の機能を少しでも改善し、日常生活動作を行いやすくすることを目的とします。

経過観察

神経の回復には時間がかかるため、診察、神経伝導検査、筋電図検査などで回復状況を定期的に確認します。回復の兆候がない場合や麻痺が進行する場合には、治療方針を見直します。

治療にはそれぞれ利点と注意点があります。手術を行った場合も、感染、出血、神経障害の残存、神経腫、痛みの残存、瘢痕、関節拘縮、再手術の可能性などのリスクがあり、術後のリハビリテーションと定期的な経過観察が重要です。

5.合併症

末梢神経損傷が進行したり、回復が不十分な場合には、感覚や運動機能だけでなく、日常生活や仕事にも大きく影響することがあります。
主な合併症・関連する問題には以下があります。

  • しびれ、感覚障害の持続
    損傷された神経の支配領域にしびれや感覚低下が残ることがあります。感覚が鈍いと、熱い物、鋭い物、圧迫などに気づきにくく、やけどや傷の原因になることがあります。
  • 筋力低下、麻痺の残存
    神経の回復が不十分な場合、手足の筋力低下や麻痺が残ることがあります。手ではつまむ、握る、細かい作業が難しくなり、足では歩行障害やつまずきにつながることがあります。
  • 筋萎縮
    神経からの刺激が届かない状態が長く続くと、支配されている筋肉がやせることがあります。筋萎縮が進むと、神経が回復しても機能回復が不十分になる場合があります。
  • 関節拘縮、変形
    麻痺や痛みにより関節を動かさない状態が続くと、関節が硬くなり、手指や足の変形が生じることがあります。早期からの適切な装具やリハビリテーションが重要です。
  • 神経障害性疼痛
    神経損傷後に、焼けるような痛み、電気が走るような痛み、触れるだけで痛いなどの症状が続くことがあります。痛みが慢性化すると、睡眠や日常生活に影響する場合があります。
  • 神経腫
    切断された神経の断端に神経腫ができ、押すと強い痛みやしびれが出ることがあります。症状が強い場合には治療が必要になることがあります。
  • 複合性局所疼痛症候群
    外傷や手術後に、痛み、腫れ、皮膚色の変化、発汗異常、関節のこわばりなどが長引くことがあります。早期の評価と治療が重要です。
  • 皮膚トラブル、外傷
    感覚が低下している部位では、やけど、切り傷、靴ずれ、褥瘡などに気づきにくいことがあります。皮膚の観察や保護が大切です。
  • 歩行障害、転倒リスク
    下肢の神経損傷では、足首や足指が上がりにくくなり、つまずきや転倒のリスクが高くなることがあります。装具や歩行訓練が必要になる場合があります。
  • 仕事や日常生活への支障
    手作業、パソコン作業、運転、家事、スポーツ、歩行などに支障が出ることがあります。症状が長引く場合には、作業環境の調整や補助具の使用が必要になることがあります。

また、手術療法を行う場合には、感染、出血、創部治癒不良、神経・血管・腱の損傷、しびれや痛みの残存、神経腫、瘢痕部の痛み、関節拘縮、再手術の可能性などがあります。リスクは患者さんの状態や損傷の程度、治療内容によって異なるため、治療前に十分な説明を受けることが重要です。

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※注釈
この記事は、一般的な疾患情報をまとめたものです。治療方法や検査内容は医療機関によって異なる場合があります。ご自身の症状や治療についてのご相談は、診察時に医師にお尋ねください。